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黒豹は夜を切り取らない。

20180922 ご質問頂いたのでお答え致しました~。

アクマでも、キミがキライ。6―Je t'appartiens―

CategoryDevil I Know
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どこを押すと そんな音(ね)が出るの
手風琴のやうに 膝にだかれて

――堀口大學

手風琴はアコーディオンのこと。
膝の上には、…素肌にシャツ一枚がいい
(判りやすい変態思考)。

サブタイは「じゅ・たぱるてぃあん」。

えろさはないけど行為の描写があるので18禁です。
いつもよりはなんか濃厚(当社非/当社比)。
書いてるひとは甘えろいちゃらぶが大好物です。
でも書けるかというと話が別。
全くもって別…(涙目)。

清掃員さんが割と最初からかっとばしてます。
楽しそうで何よりです(棒)。

《注意事項》
スクカータグは詐欺。繰り返す。詐欺。
清掃員さん↓
ただのミカサスキー。愛でまくり。
ヤる気がクレッシェンド。
割と本気全開。遠慮何それ美味しいの。
台詞がちょいちょい下品。
ゴスっ娘↓
無意識無自覚小悪魔化する15歳。
乙女全開。大人の階段全力疾走。
無邪気な少女でいる気がない。

少女まんがなノリで始まりました。
ので、少女まんがなノリで終わります。
…少女まんが過ぎた…。どうしよ。

誰も知らない場所で二人っきりの三週間。
らぶいちゃ。あんなことそんなこと。

言うまでもなくキャラは粉砕済。全てが捏造。
どんなリヴァミカでも大丈夫な方のみどうぞ。

20170919→
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研修先に通う内に見つけたティ・サロンだった。こぢんまりとしているが、清潔で客層も良く、居心地がいい。邪魔しない程度に音楽が流れている。
何より、嗜好品と言えばまだまだ珈琲が主流のこの国にあって、紅茶がメインで提供される店は珍しい。しかも、飲めば美味いときている。提供される軽食も軒並み美味だった。

「この曲、好き」
運ばれてきたカップに紅茶を注いで、二つの内のひとつをリヴァイの前に置いた。
「ん?」
目で謝意を伝えてカップを手に取る。見るでもなく水色を眺め、甘い香りを鼻孔に招いた。
「『Je te Veux』」
「ジュ・トゥ・ヴ? ああ、コレそんなタイトルか。よく聞く割にタイトル知らなかった」
ミカサは紅茶に砂糖を加えた後に、ジャグからミルクを注いだ。
「うん。私も知らなかった。でも、わかってからも、タイトルの割に曲が軽快で、なかなかすぐタイトルと繋がらなかった」
「そうなのか」
「だって、『あなたが欲しい』って意味だから。そんなタイトルなら、もっとこう、情熱的だったりメロウな曲を想像しちゃうんだけど、軽やかだし、なんか――」

テーブルの上のミカサの手の先に、リヴァイの指先が触れた。




「リヴァイ、自分で出来るから、」
「いいから、座ってろ」

バスルームに置いた椅子に腰掛けるミカサの足元に、洗面器よりは大きめの、深さのある手つきの白い琺瑯の洗い桶が置かれている。湯を注ぎ、バスソルトを少量入れて手で溶くと甘いピンク色に染まった。

「ほら、足。入れろ」
「う、ん…」

ちゃぷ。

足が湯面を静かに割いて中に入る小さな音が響いた。

「熱さは」
「少し熱いけど、逆に気持ちいい」
ほんの少し、しみる気がするけれど、それでも何となくすっきりする、ように感じる。

わずかな痛みは快楽に似ることがある。自ら痛みを追って確かめて耽溺してしまう。痛みを手放したい気持ちとずっと浸りたい気持ちがせめぎ合う。

「そうか」

リヴァイの手が同じように湯に潜る。ミカサの足をとらえると、ゆっくりと力を入れた。

「ん、」
「強過ぎたか」
「ううん。大丈夫」

一方の手が踵を掴み、もう一方の手が指とてのひらとで力を加え、ほぐすように動いた。

「ん、あ、」

時々、声がもれてしまう。

「痛いか」
「違う。くすぐったい」

小さな足の指の間すらもするするとリヴァイの指先がすべり込んでくる。

ぱしゃん。

「ごめんなさい、」

くすぐったさに堪えきれず動かした足が湯を弾いて飛び散った。

「なんともねえよ」

湯がちゃぷちゃぷと音を立てる。リヴァイは黙々とミカサの足を洗っていた。マッサージと呼ぶべきなのだろうが、ミカサにとってはいたずらに呼吸を早める愛撫に思えてならない。

「リヴァイ、あの、もう、」
「今終わる。もう少し待て」
「いいの、自分で出来るから」
「やらせとけ」

俯きがちで表情が見えない。さら、と髪が流れるように時々揺れる。ミカサはその髪の動きを見つめる。手を入れると絡まることなくするりと手に馴染んで心地いい感触なのを、今のミカサは知っている。

触れさせてくれるからだ。

誰をも警戒して抱きしめることを許さない気性の荒い肉食の獣を、自分だけが撫でてやることが出来るような、少しばかり淫靡な、奇妙な優越感がある。

水滴が湯面を打つ音が響いて、我に還る。熱に包まれていた両の足に冷気を感じた。リヴァイの膝の上に置かれていたタオルに着地を促される。

「リヴァイ、あとは、ホントにもう、自分で――や!」

爪先に、口づけられた。

「ダメ!」

舌の先がするりと足指の間を通り抜けた。唇が指先を軽く含み、わずかに、吸う。

「もう、痛くねえのか」
「お願い、離して、」

ふわふわとしたやわらかいタオルに水分を移しとって足をゆかに置く。洗い桶を寄せると、ミカサのすぐそばにリヴァイが進み出てきた。

「泣くほど痛えんじゃねえか」
「ちが、…わかってるクセに!」
「何がだよ」

リヴァイがミカサの顔を覗き込んだ。睫に縁取られた淡いグレイの瞳は、ようやくそれとわかる程度に青みを帯びている。ミカサは視線を合わせることが出来なかった。

「あっ…、」

手が、ミカサの足首を掴んだかと思うと、するすると上り始めた。膝の辺りまでくると顔をそこに寄せて、スカートの裾を歯で噛み、腿に寄せて露にする。ふくらはぎの辺りを手がくすぐったかと思うと、膝頭に唇を押し当てた。
湯に浸っていた手が、しっとりと濡れて、熱い。

「痛えんなら、我慢するなよ」

甘さと残酷さが、同時に瞳を輝かせるのを、目の当たりにしてしまった。ミカサの手がリヴァイの肩を押しやろうとするものの、何の意味も持たなかった。

「リヴァイ、や、」

手がスカートの中に忍び込む。内腿を撫でられて、ミカサの小さな口からリズムの整わない息がこぼれてくる。

「移動するか」

背を丸めて縮こまるミカサを抱き上げると、歩き出してバスルームを出た。

「リヴァイ、下ろして」
「まだ、痛むんだろ」
「歩けるから」
「そうか」

意に介さずすたすたと移動し、あっという間にリビングに着いた。ソファに下ろされる。座面に対して並行に下ろされたために、足を下ろすべく腕に力を入れたのだが、すぐに封じられてしまった。もののついでと言わんばかりにソファの背が倒されてしまう。

「家戻ったら、何でもお前ひとりでやらなくちゃならねえだろ。ここに居る間くらい、可能な限り、何もしねえで過ごせばいい。それでなくてもお前が炊事担当してくれてんじゃねえか」
「あんまり甘やかすのは、どうかと思う。何も出来ない人間になってしまう」
ミカサは少し大袈裟に言った。
「そうだな。少なくとも、コレはひとりじゃ出来ねえな」

何でこんなに気持ちいいんだろう。リヴァイの唇だから?

「ん!」

手が、スカートの中に改めて忍び込んできた。

「待って、」
「待って困るの、お前の方だろ」
ソファのスプリングがきしりと声を上げた。
「ん、ヤ、」
声を堪えようとするのが、余計に甘さを増すと、いつになったら気づくのだろう。そう思いながら、スカートとペティコートを折り返すようにめくり上げて、腿の内側に唇を押し当てる。
「リヴァイ、」
舌先がなめらかな肌をたどると、伸びやかな足が小刻みに震えた。軽く歯を立てると肌が粟立った。
「ダメ」
「もう要らねえだろ。こんだけ濡れてたら」
「やぁっ…」

ショーツがするすると足を伝ってすべり落ちてゆく。

「溢れてんじゃねえか」
「ヤメ、」

ぬる、とそれまで触れたことのない感触が侵入してきたのを感じて、ミカサが身体を捩った。

「リヴァイ、なに、…やだ、なにしてるの、」

感じるはずのない場所で、呼気が肌をくすぐる。一瞬にして悟って、ミカサの腰がひくん、と揺れた。

「そんな場所、ダメ、」

本当にそんなこと、するなんて。

女性向けのロマンス小説で、そんなシーンを読んだことがない訳でもない。ただ、自分が実際にされる側になると、どうしていいかわからない。いたたまれない気持ちと恥ずかしさと、……気持ち良さ。

猫がミルクを舐めている時に似た濡れた音が耳を刺してきて、死んでしまいたくなる。こんなことされてるのに、逃げようともしないなんて。されるがままになってるなんて。

「リヴァイ、」
「力、抜いてろよ」
「…! あ、ヤだ、」
「…この前と同じだ。力入れんなよ。指一本なのにそんなに締めつけてどうすんだ」
「ふ…ぅ!」
「それでいい」

言われた途端に、リヴァイにのみ触れることを許した場所を、舌が撫でて濡れた音が響く。泣きたい訳ではないのに、涙がにじんでは珠になってこぼれ落ちてゆく。
指が分け入っては退いてまた中に飲み込まれようと動く。指と唇とで刺激されて、何も考えることが出来ない。

「リヴァイ、も、……あ、」
「我慢すんな」

堪えても抑えても声がもれて息が弾む。

「離れてるの、ヤ」
平生なかなか聞くことの出来ない甘えるような声と口調。どうやら抱きしめて欲しいらしい。
「……お前、俺の理性と下半身、的確に狙い撃ちしてきやがるな」
「リヴァイ。……おねがい、」

無自覚に誘い込んで絡めとって離そうとしない。それを不快に思わない事実を受け容れられるくらいには、……溺れている、のだろう。

自分にその気がある時に、後腐れなく、未来や約束など求めない清潔そうな女を抱くくらいが、性に合っていると自分でも思う。二度と会わない、会っても気づかない程度の時間を共有するくらいが丁度いいのだと。
抱いた女の顔を、思い出せた試しがない。顔になど、用はない。必要なのは熱を帯びたぬかるみと場所と清潔さと少しの時間。

「腕、俺の首に回せ」
「ん、」

力のない腕がリボンでも結ぶようにふわりと巻きついてやわやわと締め付けてくる。

「リヴァイ、」

抱いた女に、名前を呼ばれた記憶がない。名乗ることすらしなかった、ような気もする。そもそも会話はあっただろうか。
それすらも憶えていない。

「リヴァイ…!」

すすり泣く声が甘いと感じる事実には、呆れることすらある。
啼かない女もよくわからないが、やたら啼く女もそれはそれで五月蝿くてかなわない、そう思っていた。
こいつは、……もっと聴かせろとしか思わないときてる。

自分にウンザリする。

「ここに居るだろ」
「ん、……うん、……ン……まだ、こうしてて、」

ヤクなんぞ興味もねえが、……お前、悪いクスリみてえだな。抜けられる気がしねえ。どうしてくれる。

「離してやると思ってんのか」

今は同じシャンプーの香りがする黒髪でゆっくりと呼吸した。

窓の外で鳥の鳴く声がする。ふだん住んでいる辺りとはまた違う鳥がこの辺りには居るらしい。
自分の腕の中でくたりと横たわる小鳥は、啼き疲れたようだった。



「夏休みのどこか三週間。その内の何日かでいいから、一緒に居たい。リヴァイの家に、泊まってもいい?」

ミカサが言った。真っ直ぐにリヴァイの瞳を見つめている。

「あ?」

春の名残の頃。いつものようにリヴァイが迎えに行き、ミカサをアパートに連れてきたその午後だった。

「博物館の、体験プログラムに申し込むつもり。プログラムそのものは二週間だけど、三週間確保する。参加したいのは両親には言ってある。その期間は、ほぼずっと家を出ることになるから、……リヴァイの都合のいい日に、ここに来たい。……いい?」

夏休みはどんな高校も大抵三ヶ月ほどの長期に渡る。旅行に行く者、スポーツに勤しむ者、イベントを楽しむ者、皆様々に謳歌する。成績が悪くなければサマー・スクールに参加する必要もなく、せいぜい課題図書を読んでレポートを提出するくらいだ。
ミカサは博物館の体験学習プログラムに参加したい、と両親に告げた。
大都市には数ヶ所規模の大きな美術館や博物館がある。夏休み期間中は学生を対象に業務体験をさせてくれることがあり、興味のある者にとっては毎日作品や展示物に触れながらキュレーターたちから知識やノウハウの一部を学ぶことが出来る。
ついでに言えば、その館の存在する都市での生活も満喫することが可能となる。宿泊はユースホステルやゲストハウスを探す。贅沢を言わなければ滞在先は結構あるものだ。

「もう寝泊まりするとこやら何やら、決めてあんのか」
ミカサのつくったサングリア風のアイスティの入ったグラスをテーブルに置いた。氷がぶつかり合って、カラン、と心地よい音を出す。
「少しずつ、目星はつけてるけど、まだは決めてない」
「……なら、一緒に行くか。研修先に通える範囲のどっかにコンドミニアムかゲストハウス借りりゃいいだろ。そんだけまとまった期間なら割引も利くしな」
「え」
「そしたら、ずっと一緒に居られるだろ」
「いいの?」
「その代わり、……覚悟しとけよ」
「なにを?」
「ヤりまくるからに決まってんだろ」
「リヴァイ!」
「一晩中、寝るヒマもねえからな」
「リヴァイ!!」
「まだなんもしてねえ。泣くなよ」
「泣いてない!」

流されたみてえに勢いに任せて抱いたら、お前、自分がその程度の女だって、俺の知らねえところで、ひとりで泣くんだろ?

「来い」
「やだ!」

腕を掴んで引き寄せる。ミカサはリヴァイの膝の上に落ち着いた。目が潤んでおり、頬に赤みが差している。

「恥ずかしくても泣くんだな、お前」
「うるさい!」
「どんなことされるか想像して羞恥心湧くくらいにはオトナになったか。それとも、……期待で身体が熱いか」
「リヴァイ、黙って!」

ミカサの腕を首に巻きつけさせてみると、抗うこともなく抱きついてきた。

「素直なんだか素直じゃねえんだか、わかんねえな」
「知らない」
「今すぐにでも突っ込みてえの我慢して、お行儀よく待ってやってんだから、ちったあ感謝しろよ」
「その言い方どうにかして!」

ミカサの唇が耳朶を甘噛みした。ゆるゆると首筋をたどり、首の付け根に留まる。リヴァイ、いつもすごくいい匂い。

「ずっと一緒でも、いいの? 三週間も? 邪魔じゃない?」
「お前こそ、ずっと一緒だぞ。毎日食われるかもしれねえのに、平気かよ」
「…………うん。リヴァイなら、いい」
「言ったの、後悔させてやる。朝昼晩関係ねえぞ」
「…………もうっ!」

髪を梳かれて、頭を撫でられる。ミカサは安堵のため息をもらす。
すごく、気持ちいい。

「ミカサ。口」

呼ばれて、顔を見る。とりわけ、その瞳を。
あたたかみのある色ではないのに、やさしく感じる。

「舌、」

促されて求められるままに口を開いて待つ自分を、少しだけ離れた場所から眺める。親が知れば、さぞかし嘆くだろうと思う。
一人娘がこれほど淫らだとは思いもしない。いつまでもパパとママの何も知らない可愛いベイビィのはずなのだ。現実がどうあれ、永遠にそう思うものだろう。それが親だ。

そもそも自分自身が驚いている。こんな風になれるとも、知らなかった。

「ン…」

何も知らなかった頃には、戻れない。戻るつもりもない。今のままの私を、受け容れてくれるから。
オトナになったつもりでいきがってるだけのコドモの私を。コドモのフリをすれば何でも許されるとどこかで思っているずるい私を。

大事にされるって、すごく気持ちいい。
この手になら、壊されてもいい。

違う。私を壊せるのは、この手だけ。

夏が来たら、リヴァイだけのものになれる。
一緒に夜を過ごせる時に。それが約束だった。
もうあのひとのものなのに。たましいとか。こころとか。知らない内に捧げてしまっていた。あるいは、投げ出したのかもしれない。それとも、押し付けた、のかもしれない。

心待ちにしている自分は、もうかつての自分などのはずがない。
ただ一緒に過ごせることが、こんなにも嬉しい。同じ場所に居られること、同じ空気を共有出来ること。手を伸ばせば届くこと。顔を見て話が出来ること。心臓の音が感じられること。

「そんなツラ、すんな」
「え」
「勢いに流される」
「平気」
「……馬鹿野郎」

罵るくせに。甘いことばなんて言わないのに。とてもとても、甘い。甘くて、気持ちいい。

腕の中は心地いい。自分だけのために設えられた牢獄は、誰にも明け渡せないと、いつもいつも、思う。

囚われる快楽は、蜜の味が、する。爛れて熟れて蕩けて、甘い。



「足、平気か」
身体の一方を下に、腕で自身の頭を支えながら、ミカサの隣で横になっているリヴァイが問いかけた。
「もうそういう問題じゃない、……リヴァイのばか……」

ミカサはいつの間にかかけられていたブランケットにくるまって背を向けた。

衣服とくだらないプライドはワンセットで剥ぎ取られる。
リヴァイからは奪えないのに。プライドも、服も。ついでに言えば、その有り余る余裕も。

「本番まで、レッスン必要だろ」
「何言ってるの…!」
「……しょうがねえだろ。安心していちゃつける環境に居んだから」
「リヴァイの家だと、安心出来ないの?」

ぎしり。ソファのスプリングが声を上げる。背中から包み込まれて、耳元を吐息がくすぐった。

「……シンデレラじゃな。時間来たら、お前は俺のもんじゃなく、…お前が可愛くてしょうがねえやさしいパパとママの一人娘に戻るだろ。こうして、誰も知らねえ場所にぶち込んで押さえつけてひん剥いて泣かせてえと思ってた」

この腕の鎖に、繋がれたい。囚われて、帰る場所もなくなればいい。
楽園と牢獄は同一ものだと知ってしまった。

ミカサはゆっくりと身体を動かして、明け方の美しい乳白色の空を思わせる瞳を覗き込んだ。


ほんの数時間前まで、一緒に家の近所を散策していた。住宅地の外れにあり、隣家と呼べるものは二、三キロは先にある。家そのものはややこぢんまりとしているが、その裏に広がる庭は子供が数人で駆け回れるほど広い。しかも、その向こうにはそぞろ歩くのに適した雑木林まである。

まだ履き慣れたとは言えないサンダルで、リヴァイと出かけた。自分たちを知る者の居ない土地で、二人きりで手を繋いで歩けるのが、とても特別でしあわせなことに思えた。
遠慮なく歩いたためだろう、サンダルのせいもあり、足に水ぶくれが出来てしまった。
痛むけれど、歩けない訳ではない。それなのに、リヴァイは家に戻ってからはミカサを歩かせようとしなかった。

「俺が居ねえと何も出来ねえお前ってのも、悪くねえな」

これほど悪辣な甘やかし方はされたことがない。呆れたのに、どういう訳か涙が出そうだった。

両親に嘘と事実を伝えて家を出た夏の長期外泊の二日目は、散策とそれが引き起こした交々に費やされた。


夏休み開始に向けて、ミカサは行き先を決めていた。受け容れてくれる博物館に問い合わせのメールを送り、やり取りを繰り返して日程を調整し、両親に書類を見せては署名をもらった。
ふだんひとりにしていた罪悪感だろう。両親共にひとりで行動することに不安を示しながらも、ミカサの希望には沿おうと寛大さを見せてくれた。しっかり者の娘は文句も言わず健気に留守を守り、自分たちの帰りを待っていてくれるのだ。滅多に願い事など口にしない娘がするおねだりなら、叶えてやりたい。何より、浮ついたものではなく、研修でもあるのだ。定期的に連絡をすると約束し、治安の良いところを選んだのも賢明だと父母は感心した。大学進学への足がかりにもなりそうだった。極端に遠い場所へ行く訳でもない。

罪悪感。それは、ミカサにもない訳でもない。全てが嘘ではないが、全てが事実でもない。
それでも、誰にも知られない三週間を過ごすことを切望していた。ただ一緒に居る、そんなことも出来ない日々に倦んでいた。

全てをクリアし、リヴァイとも連絡を取り合った。滞在先はリヴァイが確保すると約束した。
どこかのアパートが貸し出している部屋でも取るのだろうとミカサは思っていたが、意外な答えが返ってきた。

「ちょうどいいのあったから決めてきた。郊外の家、借りた。立地条件だののせいか売れねえらしくてな。レンタルに出してたとこあった。掛け合ったら、三週間でもいいって言うから、そこだ。お前とは……しょうがねえ、兄妹ってことにしてある」

何でも、市街地からやや離れていることと、手入れが行き届いているためか一見してはそうとは見えないが、築年数が十五年のためか、買い手がつきにくい家、なのだそうだ。家は買うものであり、つまりはいずれ売るもの、あまりに古いと新たな買い手がつきにくいために売れにくいという悪循環を持つことがある。
そのために割り切って短期間レンタルも可にした物件だと言う。本来なら最低一ヶ月からの利用を可としているのだが、なかなか借り手がつかず最低期限に満たない希望も飲んでくれた。リヴァイが退去前の掃除を請け負うと言ったのもよかったのかもしれない。
広い敷地を持つ研修先の博物館はやや郊外に位置している。研修プログラムの期間中は毎日送迎もリヴァイが担当すると言ってくれたために、郊外にあるその館に決めた。車で往き来することで、気軽に足を伸ばしてどこかに立ち寄ることも出来るし、買物も容易になる。

「きょうだい、……」
「お前が高校生なのに、夫婦だのコイビト同士は名乗れねえだろ」
「う、ん…」
「そんなガッカリするとこか」
「……自分が高校生だってこと、思い出したから」

リヴァイと居る時は、「高校生」だの「ゴシック・テイストのファッションが好き」だの「多忙な両親を持つ娘」だの、属性のない、ただのミカサで居られる。余計な形容がない、ただのオンナノコで居られるし、そうでありたかった。

「二人っきりの時は、ただのミカサで、ただの女だ。俺のな。それじゃ不服か」

真剣な眼差しできっぱりと言われてしまい、望んでいた答えが返ってきたというのに、ミカサはムダに体温が上昇する羽目になった。

「ううん」
「何テレてんだ」
「あっち見てて! こっち見ないで!」
「随分だな、オイ」

夏休みが待ち遠しかった。
夏の長期休暇が近づくにつれ、両親も比較的頻繁に家に帰宅するようになった。父も母も留守の間のミカサを褒め、感謝のことばを並べ、労ってくれたし、ミカサもいつも多忙を極める両親の健在を喜び、慰労の気持ちを伝えた。
リヴァイに逢える頻度が落ちたが、我慢すれば一緒に居られるのだと自分に言い聞かせた。

パパとママのイイコは、嘘を吐いてイケナイコトをしようとしている。
後ろめたさといずれ来る日々への高揚感。

でも、だって。一緒に居たい。お別れの時間を気にしなくてよくて、ひとりの部屋で眠るさびしさも考えなくていいなんて。
あの、部屋で帰り支度するのとか。車から降りるときのさびしさとか名残惜しさとか。また逢えるって嬉しさより、何で離れなくちゃダメなのって気持ちの方が強い。また逢えるのだって、嬉しいのに。すごくしあわせなことだってわかってるのに。



初日は、荷解きをして家中の確認をして、買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、デリで買ってきた出来合いのものを食べて、ただゆるゆると時間と空間を分かち合って終わった。

「リヴァイ。だから、あんまりお金遣わないでって、あれほど」
可愛らしいナイティを手渡され、ミカサは思わず抗議した。
「……こんなことしか、してやれねえからな」
「そんなこと、ない。いつももらってばっかりで、」
「俺は、お前全部をもらう。お前に釣り合うものはねえんだ。それくらい、させろ」

駄目だった。結局、堪え切れなかった。
ミカサの目から涙がこぼれる。

一緒に居られること。そのために手を尽くしてくれるひとが居ること。両親への罪悪感。嘘を吐いてまで欲望を果たそうとする自分の醜さへの嫌悪。様々なものが綯い交ぜになって胸と涙腺に押し寄せて溢れさせてしまった。

「風呂の準備出来てるから、ゆっくり浸かってこい」
頭をなでてやると、ミカサはナイティを抱きしめて居間のソファから腰を上げた。
「うん……ありがとう、リヴァイ」
「おう」

使い終えて明け渡されたバスルームに消えたリヴァイが寝室に戻ると、ミカサはリヴァイが与えた寝間着を着て、ベッドの上で冊子を眺めていた。研修先の博物館が発行している公式ガイドだった。

「研修、楽しみか」
「うん、一応は」
「何だ、一応って」
「いちばん楽しみなのは、リヴァイと一緒に居られることだから」
「そうか」
「うん」

ごく薄いコットンのブランケットとコンフォーターカバーを折り返して、ベッドにすべり込む。
「ほら。お前も入れ」
「うん」
ナイト・テーブルに冊子を置いて、シーツの間に足を押し込んだ。
日中はそれなりに暑いと言えなくもないが、湿度が低く、夜にもなれば比較的落ち着き、日によっては空気がひんやりとしている。

「リヴァイ。くっついて寝てもいい?」
「いちいち訊かなくていい。好きにしろ。明かり、消せよ」
「うん。ありがとう」

テーブルの上のライトを消すと、仄かなフットライトが自動的に点灯した。衣擦れの音がして、ミカサがリヴァイのそばに擦り寄る。腕を回して頭を抱きしめてやると、小さな啜り泣きが聞こえてきた。

「お前、意外と泣くよな。大事な本ダメにされても平気で俺のこと睨んでやがったのに」
「だって。嬉しい。一緒、居られる、って、……だから、」
「安上がりだな。こんなもんで喜ぶか」
「好きなだけ、笑えばいい」
鼻をぐすぐす言わせながら、ミカサが拗ねたようにつぶやく。
「笑っちゃいねえだろ」

リヴァイは枕の白に映える黒髪を見つめた。

「ミカサ」
「なに」
「お前、……俺のこと、訊かねえんだな」
「なに」
「噂、知ってるだろ」
刹那、ミカサの身体が揺れた。
「…………う、ん」
「いいのか。事実なら、ロクなもんじゃねえぞ」
いついかなる時も、正直に言えば、なにもわからない不思議なひとだとは、思っている。でも、このぬくもりは確かなもので、自分を満たすのはそういうものだと思う。だから。
「……私に水をかけてふんぞり返ってたのも、頭を撫でてくれるのも、抱きしめてくれるのも、一緒に食事してくれるのも、こうして居てくれるのも、リヴァイ――ただの、リヴァイ。それでいい。話す必要があるってリヴァイが思うことがあったら、きっと言ってくれると思う。だから、いい」
「…………そうか」

このガキ。心臓簡単にぶち抜きやがって。

溺れるほどに息は苦しくなるものと思っていたのに。

抱きしめる腕に力を込めると、ミカサは安心したような満足げなため息をついた。

「あったかい。いい匂い」
「お前がな」

夜が、更けて満ちてゆく。やがて朝を生むために。


二人だけで過ごす三週間の三日目から、ミカサの研修が始まった。
「今日は展示見て時間潰してる。終わったら、スマホに連絡入れろ」
「うん」

見慣れたミカサがそこに居る。長いとは言えない髪を両サイドに結い上げ、黒のショート・スリーヴのシャツ・ブラウスにバーガンディと黒のチェックのボックス・プリーツのスカート、黒のニーハイソックスに黒のTストラップシューズ、と、黒がメインのファッションだった。襟元に小さな銀の薔薇十字を下げているのがミカサなりのこだわりなのかもしれない。
博物館から支給された名札を首から下げているが、ネックストラップは好きなメゾンのリボンから自作したものだった。バーガンディに黒でロゴが入っている。
目元と唇に、ほんのりとダークな色彩と風情。

「少し久々だな」

二人で過ごす時は、メイクもなく黒にこだわることもない。リヴァイから贈られた服がほとんどで、選んで持ってきた自分の手持ちのものも割合色彩に溢れている。

「戦場には戦闘服!」
ミカサはウエストに両手を添え、胸を張って見せた。
「何と戦うんだよ」
「全員と初対面ていう環境と、……リヴァイの顔見られないっていう事実」
ぽそぽそと言ってしょげた顔をする。
「オイ、連れてくのやめるぞ。ベッド戻れ今すぐ。とっとと脱げ」

ウエストに腕を回されて抱き寄せられてしまい、ミカサはバランスを崩してリヴァイにしがみついた。

「クソ。六時間だ?」
「大学生なら八時間! 二時間も少ない! 会えなくてつまらないのは私なのに!」 
「黙れ。そんだけありゃ何回お前イカせられると思ってやがる」
ミカサの胸元に顔を埋めて不機嫌さを全開にして言い放つ。
「リヴァイの、馬鹿!! 馬鹿っ!!」

研修初日の朝は賑やかに始まった。


プログラムで一緒になった高校生や大学生は皆異なる地域から集まった者ばかりだった。全く知らない同士というのは、中途半端に知っているだけの相手よりも気楽でいい。ほどほどにフランクでほどほどに距離を保ち、ほどほどに会話も弾む。全員子供じみたところがなく落ち着いており、ミカサにとっては過ごしやすいメンバーとなった。
また、いちいちミカサのファッションを怪訝そうに見るような者もおらず、むしろ素敵だと褒められた。
年齢の近い男女と親切で感じの良いキュレーターの女性と共に、色々と学ぶのは思っていた以上に楽しかった。

それでも同世代とばかり会話していると、ふとリヴァイのことを思い出してしまう。

コトバの足りない自分と、常に多く語るわけではないリヴァイとの二人の時間が、如何に穏やかであるかを実感する。賑やかなのも悪くはない。互いに興味のあることについて語ったり、意見を交換出来るのも面白いと思う。
それでも、紅茶の香りの漂う中、ゆるやかにとりとめのない話をするだけの時間が、自分にとって愛おしいのだと感じる。

今、リヴァイ、何してるんだろう? 同じ施設の中だけど、広いから、すれ違うことすらないかもしれない。

夕食は、どうするつもりだろう。一緒に過ごせる時間のことを考える。夕食が終わったら。どうやって過ごすんだろう。楽しみ。

私のハートはサンフランシスコじゃなくて、リヴァイの手の中に置いてきたんだと思う。

ミカサは小さく息を吐いて、館内に配置するブックレットの仕分けを続けた。

思い出すのは、あのやさしい手と意地悪な唇。体温とか鼓動とか。触れ合わないとわからないそんなこと。
名前を呼んでくれる時の甘い声。伏し目がちな時の、睫の間から見える瞳のいろ。

帰る場所に、リヴァイが居てくれる、ということ。


「リヴァイ。重いでしょ。下りるから」
「このままでいい」

十五時に定時で上がり、迎えに来てもらって帰宅すると、バッグを下ろしてまさに一息ついたその瞬間に引き寄せられた。よろけかけて着地したのが、ソファに座ったリヴァイの膝の上だった。

「今日、どうだった」
言いながら、頬に唇を押し当てた。両腕がミカサのウエストをホールドしている。逃げられそうにない。
「うん、……思ってたよりずっと楽しかった。一緒に研修受けるひとたちも、みんな感じがいい。服を褒めてくれた。可愛いって」
鼻先を唇がかすめた。
「ハ。そりゃ礼儀正しいな。ナカミじゃなく服を褒めたか」
「ナカミを褒められるほどまだ仲がいい訳じゃないし」
こめかみにキスをされる。
「仲よくなりてえの、居たか」
「二週間、それなりにうまくやっていければいい」
手が結い上げた髪をほどく。一方はリヴァイが下ろし、もう一方はミカサがほどいた。下ろした髪を、リヴァイの手が梳いた。
「友達は、居たっていいだろ。新しく友達をつくれ、でも昔からの友達もそのままって歌、あるじゃねえか」
項の辺りをてのひらが包み込むように支えたのを感じた。
「ガールスカウトにでも在籍してたの? …終わるまでに、そうなれれば、それはそれでいいかもしれない。でも」
「でも、何だ」
「リヴァイと一緒に居たかった」

言い終わるか終わらないかの内に、唇に唇が重なった。

「これから朝までいやってほど一緒だってのにか」

弾む息のこぼれる唇を、舌先がなぞった。ミカサはふる、と身体を震わせた。

「リヴァイは、イヤなの」
「朝までに答えわかるだろ」
「イヤなの…」
「夕食食う前にお前食えってアピールか」
「食べてくれるの」
「とりあえずお前、胃袋に訊いてんのか、下半身に訊いてんのか、どっちだ。メシの話なのかよ、お前についてか。どっちだよ」
「…………両方?」
「クソが……」

抱きついた腕に力を込めてみる。約束されていたように抱きしめ返されて、ミカサはリヴァイの肩に額を押し付けた。

「六時間、長かった?」
「まあな」
「私だけそう思ってたんだったら、呪うとこだった」
「物騒だな」
「片想いの相手を振り向かせるおまじないとか」
「今ソレやったら、お前に背ェ向けるだろうが」
「え」

ほらまた。目を合わせないの。なんで。このひと時々すごく可愛くなる。

「ふふ」
「なんだよ」
「なんでもない。夕食、なにがいい? 外で食べたい?」
「何でも問題ない。作るの、負担じゃねえか」
「ううん。リヴァイはお世辞うまいから、作ったのなんでも美味しいって言ってくれるし、作るのは楽しい」
「世辞じゃねえって言ってるだろ。…なら、家で食うか」
「ん」
「だがな」
「なに」
「まだ、いいだろ」
「うん」

くっついて、埒も果てもないどうでもいい会話を重ねる。
すごく、しあわせ。
期間限定だとしても。
いつか、……期限なんてなく、リヴァイの居るところが帰る場所になればいいのに。


「もう風呂入れるぞ」
夕食が終わって片付けも終わると、リヴァイが風呂の準備を始めた。
食洗器はあまり信用していないと言い、平らなプレートはセットしたものの、グラスやボウル、カトラリィはリヴァイが全て手洗いした。ミカサは拭いて棚に戻しただけだった。
食事に文句などは一切つけず、きちんと平らげ、美味いと褒めてくれる。穏やかに会話しながら、ゆったりと食べた。おまけに後片付けを当たり前のように買って出た。

り、理想の、だんなさん?
自分のことばにひとりで赤くなる。

「リヴァイ、先入っ」
使い終えたシンクをふきんで拭きながら言ったのだが。
「行くぞ」

当たり前のようにミカサの手を引いてバスルームに向かう。

「だから、あの、先に」
「俺はこんなとこに猫か犬でも抱っこしにきたのかよ。お膝に載せるだけで満足してるとでも思ってんのか」

ミカサは口を開くもののことばが出て来ず、閉じてはまた開きを繰り返した。

「しょうがねえから、明かりは少し落としてやる」

バスルームへのドアを開けて思わずミカサは声を上げそうになった。窓辺に、大きめのキャンドルがいくつか火を点して置いてある。

「ライト点けねえと真っ暗だし、LEDのランプは非常用だしな。蝋燭ならお前も妥協しやすいだろ」

ドラマとかで見るヤツ。ロマンティックさを演出するの。仲のいいカップルとか夫婦とかが。……その後ベッドに行くの。そうでなければ、そのまま、バスルームで、とか。

「いや、無理にとは言ってねえよ。ライト点けるか」
「ダメ! 明るいの、絶対ダメ!!」

リヴァイ。わかってる? リヴァイにはたまたまそうなった、ってだけかもしれないけど。こんなことされたら、余計に心臓が落ち着かなくなる。

「ならこれでいいだろ」

慣れた手つきでミカサのブラウスのボタンを外し始めた。

「自分で出来る!」
「だろうな。だから、お前は俺の脱がせろ」
「自分のを、脱げばいいと思う!」
「つまんねえだろうが」

ど、どうしよう、コレ。

「言ったよな。毎日食われるかもしれねえって。朝昼晩関係ねえって」
「そ、れは、」
「いきなりアタマからかぶりつくとでも思ってんのか」
「そうじゃ、ないけど」
「何が気になる」
「……バスルームって、……音とか声とか、余計に響く、……」

仄暗い中で見えることもないだろうが、熱くて顔が上げられない。今自分はどれほど赤くなっていることか。

「甘ったるい好い声、聴かせろよ」
「もう! だから、ヤだって、」
「俺はお前全部もらうって決めてんだ。くれよ。犬みてえにお行儀良く待ってたじゃねえか」

耳元で響く声には、ふざけたりからかうような調子は微塵もなかった。
甘ったるいのは、あなたの声でしょう? 蜜みたいに絡みつく。

ブラウスをゆかに落とした。スカートも難なくそれに続く。背に手が回されて、下着も取り去られて、キャミソールとショーツだけにされてしまった。

「今は、……この俺がいい子で待ってやったご褒美、寄越せ」

リヴァイの手が伸びてミカサの両手を掴んで自分のコットンのサマーセーターの裾を握らせた。

「お前の番だ」

腕に力が入ることに、何故か安堵した。ちゃんと動く。引き上げると、両腕が上がり、するりとセーターが脱げた。
ああ。ホントに、皮でも剥くみたい。

「きれい…」
「何だそりゃ」
すごい。無駄なものがない。すっきりしてて引き締まってて。この前はびっくりしたり緊張したりだったし、今は薄暗いけど。でも、すごくきれいってわかる。腹筋、割れてる。すごい。
「男のひとのからだって、きれい。あ。リヴァイのからだが」
「こんなもんじゃねえか。野郎の身体なんざまじまじと見たことねえからわからねえよ。それにな、」
リヴァイの身体に見蕩れているミカサを見つめる。
「綺麗なのは、お前だろ」
「…! リ、リヴァイ、何かスポーツとか、してた?」

逸らしたい。話と、出来ればその真っ直ぐな視線も。

「セックス以外の運動やるように見えるか?」

ミカサの手からセーターを取り、ゆかに落とす。その手を自らの引き締まったウエストに押し付けた。

「続き、あんだろ」
「う、……」
「俺は、お前のものだろ。慣れろよ、そろそろ。まあ、見たくもねえキモチは解る」
「イヤなんじゃないの。恥ずかしいだけ。それに、……見たことくらい、あるし」
「あ?」
「……教科書と、学校で見せられた性教育の教材のDVD」
耳元の髪の毛が吐息で揺れた。笑っているのかもしれない。
「なら、文字通り生きた教材か、俺が。喜べ、仕組みと使い方は懇切丁寧に教えてやる」
「……ばか」
「泣くなよ。からかい甲斐あり過ぎだ」

ようやくベルトのバックルが外れたらしい。ループからベルトを引き抜く。

「あ!」

腰に腕を回して抱き寄せられて、ミカサがびくんと動きを止める。

「悪い。お前、冷えてきたな。先、湯に浸かってろ」
「いい。不公平だから、脱がせてあげる」
「…ほう」

何につけぎこちなく不慣れに動く手。合わせようとしない視線。つぐんだ唇。
時折、小さく弾む乱れた吐息。恥ずかしそうな表情。
薄闇に慣れた目に、少し眩しい。

何も考えずに、抱き潰してやりたくなる。その壁に押し付けて、泣くのも無視して。

「手。震えてるな。声も」

ウエストに手をかけて引き下ろす。その手を、リヴァイの手が握った。

「上等だ。もう、いい」

冷えた肩を抱き寄せて、まなじりにキスをする。パンツとアンダーウェアを落として足で軽く蹴ると、ミカサのキャミソールを肩から落として、ショーツを脱がせた。

「歩けるか」
「多分」

バスタブに向かった。バスソルトの芳香が立ち上っている。蝋燭の明かりで明瞭には見えないが、どうやら湯は青いいろをしているらしい。
先に足を入れるとミカサの手を引いて促す。素直に細い脚も続いて湯に踏み込んだ。リヴァイが腰を下ろすとミカサもゆっくりと膝を折った。

「は、」
湯の中では思うように動けない。あっという間に抱き寄せられてしまう。
「……風呂入るだけで一仕事だな」
蝋燭に照らされた瞳と、影の差す顔。
「なら、どうしてひとりずつ、」
「いやってほど一緒に居るために決まってんだろ」

ぱしゃ。

湯面がゆるん、と波打つ。

「熱すぎるか」

それは、何を問うているのだろう。湯の温度なのか。それとも今自分を包み込むこの肌のことなのか。

「わからない…ううん、大丈夫、…あ!」

腕が締め付けるように背を押したせいで、リヴァイの肩に顔を埋めた。

「んんっ…」

手が背筋をなぞり上げる。いつもならシャツやプルオーバーにしがみつくことが出来ていたが、素肌ではどうにもならない。ミカサの身体が大きく揺れて、湯が波立った。
手がリヴァイの肩の辺りでさ迷っている。

「腕。まだ言われねえとどこにどうすりゃいいのかわかんねえか」
言いながら耳を食まれた。
「リヴァイのからだ、熱い」
「……お前のせいだろ」
ミカサの唇がリヴァイの耳朶から首筋をゆるゆると辿っている。
「ん、んん、」
左手が胸の丸みに添うように包み込んで、指がはらはらと解ける様に動いてそのやわらかさを確かめる。
「ミカサ、」
呼ばれて、顔を上げる。
半ば開いた唇を見て、吸い寄せられるように顔を近づけた。

――わたしが、はじめてキスをしたひと。

唇が触れ合うと、最初は軽く啄まれた。

――だれか、すきになったおとこのこ、いままでに、いた? かんがえても、おもいうかばない。

やさしいハグをしてくれる隣人のようだった唇が、侵入者の顔を見せ始める。舌先が歯列をなぞり、その内側の存在を出せとささやいている。

――エレン。わたしのやみのきし。たすけてほしくて、ねがったらあらわれた。すこしぶあいそうでちょっとぶきようなわたしのまもりて。せかいが、かわりはじめたのは、そのころ。

耐え切れなくなって、口を開くと、さも当然と言わんばかりに舌が口腔を探り始める。厭ならこちらの欲しいものを差し出せと言いたげな激しさで。

――アルミン。おはなしするのがたのしいおとこのこのおともだちなんて、はじめて。やさしくてわたしにもえがおをくれる。

ここにいたのかと掴みかかるように、舌に舌を絡め取られた。もっと空気に触れたいけれど、あるのは互いの口からもれる二酸化炭素だけ。ふたりで真水に飛び込んだら、きっと泡立って弾けてしまう。

少し、苦しい。なのにやめられない。

――ジャン。やさしくもないあいそうのないわたしに、どうしていつもこえをかけてくれるのか、いまもよくわからない。わかってるのは、あなたはわるいこじゃないってことだけ。

もっと、欲しい。息が出来ないのに。

――わたしに、はじめてキスをくれたひと。せかいをみせてくれたひと。いきてることをじっかんさせてくれた。ひとりがいやっていってもいいってだきしめてくれた。

「リヴァ…、」

何かに動じることのないあなたが、息を乱している。
うれしい。
ねえ。もっと。もっと、乱して。
それが、

「足りねえ。こんなんで、治まるかよ」

――わたしのせいだ、って、いって。

リヴァイ。
まだリヴァイのものになっちゃダメなの?

――そんなかおをさせるのは、わたしなんだって、いって。いきがあがるのは、ほしいからだって。

「リヴァイ。いつからなら、私がリヴァイのものだって、言ってくれるの」

抱きしめても抱きしめても足りない。こんなに近いのに。心臓の鼓動を感じてるのに。
足りないの。

「俺を睨みつけてきたあの時から、お前は俺のもんだ」

抱き上げられて、膝の上に載せられた。脚をくつろげられて、跨るように座らせられる。腿からウエストに向かって曲線をたどったかと思うと、掴んで手前に引き寄せられた。湯面が激しく波打ってバスタブから溢れてゆかを叩く。
腹の辺りに、硬いものが触れた。

「リヴァイ。……して」

少し細めた目が、ひどくせつなげに見えて、胸が軋む。淡いグレイ。ほんの少しだけ青を含む綺麗な、いろ。

は。…は…ふ、

無理に整えた息が、弾んで浴室に霧散した。それすらも、自分のものにしてしまいたい。あなたがもたらすものなら、すべて。

リヴァイの手が、ミカサの手を掴んだ。

「少し、貸せ。お前のせいでオーバーヒートしてんだ。大して何もしねえ内から終わったら話にならねえ」

てのひらの中に、何かが脈打つのを感じた。

「痛く、ない?」

自分の手を覆う手が包み込むせいで、その熱の塊を握り締めている。

「無垢と無知がひとつの単語になる理由がよくわかったよ、クソガキ。……もう少し、強く握れ」
「平気?」
「ああ」

動脈を噛み千切りたげに、歯と唇が首筋を甘噛みする。ミカサはその心地よさと、自分の手の内に伝わるなめらかな感触と心臓のように時折蠢く感触に陶然となった。

「…っ!」

息を飲む気配がした後、一気に吐き出された呼気が髪をそよがせた。耳の裏で整えようとしている息遣いが響いて、ミカサは空いていた左手でリヴァイの頬に触れた。

かわいいひと。わたしだけのやさしい悪魔。

「だいじょうぶ?」
「腹立つな、お前。大丈夫なものなんざ、あるか」

手の中の感触が変化したように感じた。指を動かすとまた脈拍のようなものを感じた。

「寝室行く」
「……うん」

先にバスタブを出たリヴァイが、タオルで身体を拭う。バスルームのドアを開くとすぐに戻ってきた。開いた場所から、廊下の明かりが切り込んできた。

「立てるか」
「うん」

大判のバスタオルを広げてくれたのを見ると、ミカサは窓辺の蝋燭を全て吹き消した。
差し込む光を背にした影を見つめる。
バスタブから出ると、包み込まれて抱き上げられた。

「特別なものにでも、なったみたい」

ふかふかのやわらかなタオルにくるまれて、大好きなひとの腕の中に居られる。

「何言ってる。元からだ」

ダメ。まだ壊れちゃダメ。でも、心臓が痛い。すごく、痛い。

そうだった。リヴァイはいつも私を特別扱いしてくれた。何でもとっておきのものばかりくれる。
時間も場所も。
信じられないくらい美味しいディナー。可愛いアクセサリィと服。一緒に海を見に行ったドライブ。誰かを招いたことのないアパートの最初のゲストになれたこと。
繋いでくれる手。与えることと奪うことが同時に出来るキス。
次に逢う約束。いつでも繋がる連絡先。名前を呼んでくれる声。
いちばん特別なのは、リヴァイ。
いちばん欲しかったのも、リヴァイ。

気づいたら、景色が変わっていた。いつの間に寝室に入っていたのだろう。天井のライトではなく、壁に取り付けられているライトが仄かに灯されている。
立っているのにも今気づいた。タオルを取り去られるとまた抱き上げられて、――肩や背中にひんやりした感触が広がった。知らず、肌が一瞬粟立つ。

「あ」
「どうかしたか」

声がすると同時に天蓋のように影が覆いかぶさった。

「何も着てないと、シーツが冷たい」
「そうか」

影が下りてきて、自分に重なった。心地よい重さと、肌の熱さ。ついさっきまで、自分だってお湯に浸かっていたのに。

「ん」

瞼に、頬に、押し当てられる唇の感触が一瞬の眠気を呼ぶ。耳朶と首筋をすべる感触で、眠気が解けて消える。デコルテの辺りを前髪の先がくすぐって、少し身体を捩った。

「あ…、ン」

いつも、左の胸からキスをもらうような気がする。
ちゅ、と啄む音がして、かたく張りつめていた胸の先に舌が絡まった。我慢出来ず口を手の甲で押さえる。背が大きくしなり、自分ともうひとりを支えるマットレスのスプリングが小さな抗議の声を上げた。
もう一方の乳房はてのひらで包まれ、それぞれの指先から刺激を与えられた。同じキスを欲しがるように乳嘴が尖り始める。応えるように今度は右の乳房に唇が触れ、熟すことのない果実のようなそれを口に含んだ。

「ン、……ぅく、ふ、」

飲み込みきれない声と息がもれて、空気の温度をまたわずかばかり上げた。
自分に触れる男の動きに、スプリングの軋みで気づく。頭の位置が少しずつ移動しているのだと、押し当てられる唇でわかった。

「あ、」

右膝の裏に手が触れて、そっと持ち上げた。腿の裏から内側を撫でられて、また甘い声を放ってしまう。閉じたくてもかなわない。秘めやかな場所が潤って溢れているのが自分でも解る。

「リヴァイ、」

くちゅりと音がして、蜜の在り処に何かが触れた。押し当てられる感触で、湯の中で自分のてのひらが感じた脈動をふいに思い出した。

「力、抜け」

ささやいた唇が、手で支え掲げる膝頭にキスをした。

「ん、」

言われたからと言って出来るものでもないのは、わかっている。少なくとも、リヴァイは。ミカサは小刻みに震えていた。背がしなり、腿の内側やふくらはぎが強張る。

「ミカサ」
「ん、……へ…き、…だいじょぶ、」

涙声が整わない呼吸の合間に告げた。

ぎ、とマットレスが軋んだ。

「んん!」

指など問題にならないほどの質量に隘路への小さな入口を僅かに押し分けられて、ミカサが石のように固まった。

「ミカサ。……息止めるな。呼吸しろ」

リヴァイが何故一瞬息を飲み、それから吐き出したのか、ミカサにはわからない。狭く自分を押し出そうとする場所により深く分け入りたいもどかしさや焦燥などは。

「リヴァイ、……ごめ、なさ、」
「息、しろ。苦しいだろ」

小さな右手が、必死で枕を握り締めている。左手は噛むためにあるのか口元を甲で押さえていた。

「ミカサ」

落ち着いた、穏やかな声だった。抱きしめてくれた時の安堵感と心臓の高鳴りを思い出す。
はぐはぐと唇が空気を噛んだ。

「いい子だ」
「ン…ふ!」

自分の中に、空白や虚ろがあったのだと知った。それを満たして侵食しようとする熱が、杭を打つように深みを目指してくる。

「まだこのままがいいか」

遠かった声が、少し近くなった。淡い光を背に、影がささやく。

「も、すこし、だけ」
「ん」

影が、緩やかに上下している。

「リヴァイ、……くるしい?」
「……気にしなくて、いい」

柔軟に受け容れることを知らない場所は、押し返しながらもなめらかな潤みとうねりを加えながら、辛うじてリヴァイを受け止めている。すぐにでも突き進んでこの欲を満たしてしまいたい。
衝動の強さが、呼吸を荒らげてしまうのが腹立たしい。抑制出来ないほどの欲情と、それを満たせない苦痛が、これほどのものとは知らなかった。リヴァイは内心舌打ちをする。

「!」

リヴァイの左胸に小さな手が触れた。何かを確かめるように動くその手を自分の肩に移動させる。

「ほら。左手も、俺の肩に置け」
「ん…。リヴァイ。も、…だいじょ…ぶ」

ミカサが涙をこぼしながら弱々しく微笑んだ。それを合図にリヴァイが腰を突き入れた。

「あ、あ…は、ぁ、…んん!」
「もう少し、我慢しろ。声、殺すなよ。余計しんどくなる」

ベッドの軋みなのか、自分の身体の軋みなのか、もうわからない。隙間なく自分の中を埋めるものが与える痛みと熱を失いたくないと感じている。
くるしいのに。いたいのに。

「リヴァ…、」
「まだそう締めつけんなよ…お前の中に全部沈めらんねえだろ」
「あ!」

より、深く。
埋めて、満たして欲しい。隙間もなく。あなた以外、入り込む余地のないように。

「…動いていいか」

ようやく全て飲み込ませることが出来て、思わず息を吐く。リヴァイは両の腿でミカサのそれを押し上げた。

「ん、」

隘路の粘膜と溢れたぬめる蜜がゆるゆると突き上げられて濡れた音を立てる。

「あ、……や、ヤダ、……聴かないで」
「無理言うな。第一、」
「あっ…!」
「お前の声が、足りねえんだよ」

ミカサの身体の両脇にあった手が、乳房を包んで揉みしだいた。

「や、…やぁ、…ダメ、ダメ…」
「もっと啼けよ。指でされた時、蕩けそうな声で俺の名前、呼んだだろ」
「やだ…!」

自分の深い場所で、きゅ、と締め付けるような感覚がして、ミカサは口元を手で覆った。その瞬間、吸い付いて絡みつくようなうねりに包まれて、リヴァイが思わず唇を噛む。
胸を愛撫していた手をするすると引き寄せ、細いウエストを掴んだ。それまでの気遣わしげな身体の動きが徐々に強さと激しさを増してゆく。互いの身体がぶつかり合う音がして、ミカサの体温を余計に上がらせた。乾いた音が濡れた空気に拒絶されて響く。

「リヴァイ、」
「もっと、呼べ」

乱れた息を交えてせつなげな声で言われると、また身体の奥が何かを訴えるようにわななくのを感じた。退いた身体が間を置かず迫り、より深い場所を求めて遠慮がちに穿つ。

「あ、…はぁ、あ、ん、ん、んん、」

ベッドが軋み身体が揺すられるたびに狭溢なその場所を貫かれて、息苦しさと痛みに支配される。うまく呼吸のリズムを掴めないのは相変わらずだったが、粘膜をこねてさすられるたびに別な感覚まで生まれてきたことに戸惑い始めた。
痛むのに、どことなく、……心地いい。痛いのに。

リヴァイの表情がよく見えない。私には唇を噛むなって言ったのに。そんなに噛んだら、痛いでしょう?

「リ、ヴァイ、」
「…止めらんねえ」

しなやかな腕がベッドとウエストの間にすべり込んだかと思うと、ぐ、と強く引き寄せられた。

「ん、やめな…で、続けて、」

互いに互いの首筋に顔を埋めるようにして重なり合った。空気が湿り部屋に堆積してゆく。

「……ミカサ、」
「なに、」
「悪い、もう――」

全部、吐き出したい。何ひとつ残さずに。

リヴァイは動けるはずのないミカサをそれまで以上に腕で自分に縛りつけた。堪えることは放棄して、激しく身体を叩きつける。感じたことのない愉悦に、泣きたいのか嗤いたいのかわからなくなった。

すべきことは何ひとつせず、したいことだけを押し付けた。遠ざけて、触れずにいるべきだったのに。
欲に負けて流された。負けた? ……違う。汚して、自分のものにしたかった。傷をつけて、そこに自分を埋め込みたい。疼くたびに自分を思い出せるように。

「ん!」

きつく抱きしめられて、何度か強くねじ込むように突き上げられた。息の仕方などわからない。唇も塞がれて声も飲み込んだが、喉の奥で燻って何かをねだるような淫らな音を鳴らした。繋がる場所はそれ以上に淫蕩な嬌声を上げる。耐えられずに悲鳴を上げているのはマットのスプリングくらいだった。

自分の奥で何かが迸るのを感じてミカサは震えた。それが融けて流れて自分の中に留まればいいと願う。
リヴァイがくれるものなら、全て欲しい。それが苦痛でも痛みでも傷でもいい。

「リヴァイ、」

解放された口からは、それしか出なかった。それと、乱れたままの荒い息と。
速い鼓動を感じて、自分のものと思ったものの、それが二つあることに気づいた。自分の右の胸に重ねられた心臓も、内側から存在を主張している。
頭をかき抱くと、さらさらと流れる髪に指を忍ばせた。

わたしのもの。ぜんぶ。このひとは、わたしの、わたしだけのもの。だれにも、わたしたくない。

「俺のものだ」
「うん。……うん。…………あっ…」

ミカサは自分の中で、息を吐いて眠りについたと思った器官が、また目覚めたのを感じた。

「……悪い、」

リヴァイが苛立ったように目を逸らした。

「もっと、くれるの?」

甘い声が響く。

「身体、辛いだろ」
「……くれないの?」
「クソ。煽りやがって」

痛みでいい。それを刻まれて、あなたがわたしのものだって、実感出来るなら。

リヴァイが上体を起こしたために、ミカサは改めて深く突き上げられた。繋がる場所がこすれ合ってぐぷぐぷと卑猥なため息をもらす。

小さな手が、リヴァイの左胸に触れた。腕の主は息を弾ませていた。

「これが欲しいなら、お前にやる。その代わり、お前のを寄越せ」
「それは、もう、リヴァイのもの。だから、今は、それ以外のぜんぶ、もらって」

ミカサの願いをかなえるべく、リヴァイは再びゆっくりと覆いかぶさった。



「ミカサ」
「!」

眩しい。目に陽の光が刺さる。
朝だった。鳥のさえずりが聞こえる。庭の木々にいるのだろうか。

「少し早えけどな。起きろ。風呂入れてやる」

リヴァイに時間を尋ねると、まだ五時半だと言われた。夏は夜明けが早い。

「んぁ…!」

身体を起こそうとしたが、あちらこちらが痛みを訴えている。背筋は張り、腰には鈍痛が鎮座していた。脚の付け根は軋むような気がするし、腿の内側も強張っている。
腰から下は、まだ何かが入っているような違和感と、何とも言いようがない疼痛に満たされている。

「俺のせいだ。すまない」

身体を抱き起こされながら、耳元でささやく声を聞いた。

「だ、だいじょうぶ。あ、の、リヴァイは、大丈夫?」
「まだお前を抱けるかって意味か? なら、全く問題ねえよ。足りねえくらいだ」

もう。そうじゃない。あまり寝てないと思ったから。
へにゃ、と泣きそうに表情を崩してミカサがうつむく。どうにか脚に力を入れてベッドから下りようとしてブランケットを折り返し、二つのことに気づいた。自分は何も身につけておらず、……シーツには赤い花弁でも散らしたような染みがあった。

「や、…ごめんなさ…」

ふわふわとしたタオルですっぽりとくるまれた。昨夜も、こうして包んでくれたことを思い出す。

「謝るな。お前に気まずい思いさせた俺が悪い。洗えば問題ない。俺が何得意か、忘れたか」

キスと誘惑。……そういえば、掃除とかお洗濯。

「今日、休まなくていいか」
「大丈夫。だいたい、何て言って休むの? 研修、まだ始まって間もないのに」
「……正直に言えよ。俺ともっとヤりて」

巻きついているタオルを押し付けるように、手でリヴァイの口元を覆った。

「信じられない!」
「元気で結構だ。戦闘服とやらに着替えたお前に朝メシ食わせて…問題なくイカせてやんのが俺の仕事だろうな」

抱き上げて寝室を後にした。バスルームには華やかな香りが広がっており、すぐに入浴することが出来るようになっていた。湯船に浸からせるとミカサにキスをした。

「どこもかしこも痛むだろ。手加減出来なくて悪かった」
「して、って、お願いしたの、私だから。リヴァイ、すごくやさしくしてくれた。……嬉しい」

もう一度、ご褒美のようにキスをされる。

「あんまり、俺を甘やかすんじゃねえよ。調子に乗ってお前滅茶苦茶にするかもしれねえだろうが」
「リヴァイになら、いい」
「あのな。……そりゃ死にてえのか俺殺してえのか、どっちだ」

ミカサの髪を洗ってやると、朝食が用意出来るまでには上がってこいと言ってその場を去った。

ぎしぎしと音を立てそうな身体を引きずってダイニングに行くと、いい匂いがした。パンケーキの甘い香り、ベーコン・エッグの香ばしい匂い、カットして間もないメロンと黄桃の瑞々しい芳香。
「すごい!」
「適当に、食えるもん食え。俺に用意出来んのはこれが精一杯だ」
「豪華! 美味しそう」
「飲み物どうする。ミルクでいいか」
「うん」

朝食を平らげ、身支度をし、リヴァイに送られて、ミカサは「戦場」に赴いた。
リヴァイはひとりになった家の中を見渡す。もうひとりが不在の六時間、やれることは山ほどある。まずは朝食に使った食器から片付けることにした。


「おはよう」
すれ違うたび皆が互いに声を掛け合う。誰もがどこか溌溂としており、仕事を楽しんでいることが伺えた。沢山の展示物が日々管理され研究され護られている。与えられた役割を真っ当すべく、全員が真摯に取り組んでいる。研究者肌でやや付き合いづらい職員も居ないではないが、全ての人々が何らかの形で繋がり、協力し合っている。
表に見える仕事の数倍もの見えない裏の仕事と積み重ねで成り立つ様を目の当たりにするのは、とても興味深かった。

それでも。

身体が思い出してしまう。

あの手がどんな風に自分に触れたのか。あの声でどんな風に気遣われたのか。
自分に預けられた身体の重みや、全身をくすぐった乱れた息遣い。

きゅ、と心臓よりも深い場所が甘い僅かな痛みを潜ませる。
ミカサは手だけは作業を続けながらも、こころを昨日の夜に飛ばしていた。

――「初めて」がどうして痛いのかわかった。
この痛みは、絶望を手に入れた証し。

失うかもしれない恐怖と、永遠になる一瞬の積み重ねを手に入れた歓びを。
絶望することすら出来なかったのに。いつもひとりで、それが当たり前で、「さびしい」の本当の意味も知らない子供だった。
ひとりのままでは知らないままのものを、こんなにも簡単に手に入れてしまった。

「ミカサ」

本当の名前を知られるのは、支配されること。昔のひとは正しかった。私があのひとの名前を呼ぶ前に、あのひとは私の名前を呼んだ。出会った時に、あなたのものになる契約を交わされてしまった。

虚ろな私の全てをいとも容易く埋めて、やわらかくやさしく縛りつける。
価値のあるもののように、大切に包まれてしまう。

痛みを快楽にすら変えて、私のことまで変えてしまう。イイコのフリが出来ただけの卑怯で小さな私を曝け出させておきながら、なにひとつ否定せずに抱きしめて。子供扱いしておきながら、女性としてエスコートしてくれた。

必要な痛みが、あることも知らなかった。

繋がっていないと、自分の中の隙間が、あのひとを恋しがる。
こんないやらしくて淫らな私でも、またあんな風にやさしく抱きしめてくれる?

「ミカサ!」

ミュージアム・ショップの商品開発企画を担当する部署のオフィスで、入館者から募ったアンケート用紙の束を手からすべらせて落としてしまった。

「すみません」
「ふふふ、ぼーっとして」
研修中同じグループとして一緒に活動している女子大学生に話しかけられ、ミカサは慌てて落とした書類を拾い始める。女子大生も手伝ってくれた。気さくでいいひとだと思っている。
「呼んでましたか」
「だって、すごい量の束にしちゃうから」
「そ、…そうですね、ごめんなさい」
「寝不足?」

体温が少し上がる。

「つい、家では出来ない夜更かしをしてしまって」

誰かに組み敷かれて抱きしめられて未知の扉を開くなんてことは、両親の居る家では出来ないのだから、嘘は言っていない。

「わかる! 私も、進学して家出てから好き放題! 夜遅くにピザ食べながらブルーレイ観たり、友達呼んで飲んだりしちゃってるもん」
「ふふっ」

話をしながらも、手は互いに休めない。

「んー?」
「どうかしました?」
「うん、…なんか、ミカサ、今日ちょっとなんか違う」
「え」
「なんだろ。なんか、オトナっぽい。んん? 色っぽい、かな」
「な、んですか、ソレ」

――リヴァイ。そんな場所に、キスしないで。

「地元に置いてきたカレシに、電話して来てもらっちゃったとか!」
「まさか、そんな」

――や。変になりそう、ダメ、

兄妹と偽って、家を借りて、二人きりで。誰にも言えない苦くて甘い秘密を紡いでいる。
とてもこわくて、とてもきもちがいい。

ミカサは仄かに笑って見せた。
その表情は、これまで生きてきた十五年が生み出したものではなく、ほんの数時間で自分の深奥から引き出されたものだった。


リヴァイが居たら、カタチは何でもいいみたい。
アパートでも、この家でも。

ミカサは家に入るなりリヴァイに抱きついた。

「六時間、長えな」
「ごめんなさい。退屈してる?」
「いや、自分の家居たって別に何もしてねえよ。お前ナシは長えってだけだ」
ミカサに凝視されてリヴァイは尋ねた。
「どうした」
「…………怒ると思うけど、……ちょっと嬉しい」
「あ?」
「居ないの気にしてくれるの、リヴァイだけだから」
目を細めてリヴァイの肩に額をこすりつけながらつぶやく。
「毎日電話かけてやってるお前の両親は、ふだんほっといてる負い目から今仕方なくひとりにしてやってんだろ。電話の向こうでどっちも会いたい寂しい連呼してたじゃねえか」
「そう…かもしれないけど。今はどうでもいい。リヴァイの居ないとこなんか、どうだっていい」

手を引かれて歩く。リヴァイがソファに身体を預けると、ミカサを抱き寄せて自分の上に座らせた。
結った髪の一方をほどかれたので、ミカサが反対側に結い上げた髪をほどく。

「パパとママの可愛い娘を、随分と堕落させたもんだ。お前の悪魔も大したもんだな」
下ろした髪を指先で梳きながら整える。
「それ、今、要らない」
「あ?」
「誰の娘とか、そういうの」
リヴァイの手がミカサの黒のネクタイをほどき、シャツのボタンに手をかけてひとつひとつ外してゆく。前身ごろを開くと、数えられる程度とは言え、鬱血の痕がある。リヴァイは思わず眉を顰めた。自制というものがあると思っていたのは勘違いだった。
「そうか」
「ただのミカサがいい」
目の前のホックを外すと、やわらかな胸があふれ出した。
「そうだな」
淡く静脈の透ける白い丸みに唇を寄せると、ミカサの手がリヴァイの白いシャツの袖を握り締めた。
「リヴァイ。私と一緒に居るの、平気? 飽きない?」
前髪の分け目からのぞく額にキスをしながら尋ねる。
「まだ飽きるほど一緒に過ごしてねえだろ」
粟立つ肌に唇をすべらせて、舌先でくすぐる。黒のシャツに手をかけて肩から引き下ろした。
「だって、もう、十日経った」
眉間に唇を押し当てて、それから、大好きな瞳を縁取る睫の先を食む。
「まだ十日じゃねえか。飽きたのなんの、俺をイカせまくってから訊け、そういうのは」
「……ばか」
シャツがゆかに落ちた。両手で、頬を包んでみる。リヴァイって、顔も頭も小さい。
顔を寄せて、唇を重ねてみた。薄い唇が開いて、誘い込もうとするのに気づく。ミカサは思い切って舌を忍び込ませた。項にてのひらのぬくもりを感じたかと思うと、引き寄せられてキスが深くなった。


博物館から家に戻るまでの車の中が、いちばん落ち着かない。
大抵は、夕食の時間帯まで蜜のような時間を過ごす。一緒に眠るだけのこともあれば、互いの知らない場所を探すのに費やすこともある。
食事が終われば後片付けをして、ミカサがその日のレポートをメールで研修の担当者に送信すれば、またともに時間を過ごす。

一緒に居られるだけで、離れなくて済むだけで、それだけで嬉しいし、すごくしあわせ。
でも、リヴァイは?
私と一緒に居て、楽しいの?
セックス出来るから、我慢してるとか?


「あ」
リヴァイの手がミカサの両手を掴んだかと思うと、黒のネクタイで手首を束ねた。
「気分がアガる眺めだな」
シャツはなく、甘く清楚なデザインのブラが辛うじて両肩からぶら下がっており、上半身はほぼ素肌を晒している。
「……何言ってるの。ほどいて」
「どうせ力入らねえんだから、問題ねえだろ」
「そんな、」
ミカサの両手を掲げてその中央に頭をくぐらせると、より距離が縮まった。
恥じらうように目を伏せる。黒い瞳が潤んだ。
「言ったろ。何も出来ねえお前もいいって」
「抵抗しないのに、手首縛るの?」
「何も出来ねえお前でいいんだよ」
首筋を舌先が上から下に向かってなぞり落ちた。
「あ!」
「お前、すぐ俺のために何かしようとか、役に立とうとかするだろ。いつも気負ってるよな」
首の付け根から、鎖骨に沿って唇がすべる。
「ん、…ふ、」
「ありがてえけどな、そういうのは、なけりゃなくても構わねえ」
ミカサが少し苦しそうにウエストを捩った。
「リヴァイ、……」
はぁ、と甘い吐息がリヴァイの睫をそよがせた。
「お前、言ってたじゃねえか。俺と一緒に居たいって」
「うん」
右手の指が張りつめた左の胸の先をやさしく愛撫する。ふわ、と肌が一瞬で粟立った。
「その一緒に居たいってのは、何が何でも毎日トクベツなことなきゃダメか」
ねだるように尖るそれを口に含んだ。
「んん! …ちが、…そんなこと、…ない、」
右の胸にもキスが降りた。
「だろ。『どうでもいい』の積み重ねでいいじゃねえか。代わり映えしねえ毎日で」
ミカサがリヴァイのこめかみに唇を押し当てた。
「うん、」
乳房にいくつかぱたぱたと雫がこぼれて、丸みに沿って落ちていった。
「メシ食って寝て、……まあ気の向くままにヤって、キモチいいならそれでいいだろ。でも、ヤれねえとしても死にゃしねえよ」
濡れた頬を左手で包み込んで、今度は唇を塞いだ。
「ん、」
「……代わり映えしねえ毎日を、お前と過ごすからいいんじゃねえか。それで十分トクベツだ。飽きるも退屈も、ねえんだよ」
「ふ、……」
「トクベツなお前だから一緒に居るんじゃねえ。わかるか」
「うん……」

抱きつくと、腕が鎖のように絡みついて、……ひどく安心した。
あたたかな、血と肉で出来た鎖。

「まあでもスパイスはあった方がいいだろ」
「え」

ショーツの中に指がすべり込んできた。臍の下からではなく、脚の付け根の辺りから。

「あ!」
「脱がなくても出来る。ひとつお利口になったな」

くちゅくちゅと濡れた音がして、ミカサはより強く抱きつく羽目になった。
淫らな音にジッパーを下ろす音が被さって、顔が上げられない。

「リヴァイ、…や、ぁ、」
「毎日発見や学ぶことがあって結構じゃねえか。試したことねえ体位とかな」
「も…う! せっかく、」
「せっかく、惚れ直したのに、か?」

いちいち、憎たらしい。

「キライ」
「その嫌いな男にこれからなにされんだよ」
「リヴァイのばか」
「この先感じまくってそんなクチたたけねえからな。今のうち言っとけ」

ミカサが目を閉じると、肩や胸元にキスが降った。自分がするキスは、こんなにもやさしいだろうかと考える。



二週間の研修は何事もなく過ぎていった。
時々アルミンから可愛い動画を見つけた、というような他愛ないメールが来たのは嬉しかった。返事をすると、「研修を楽しんで」、「体調に気をつけて」、とやさしいコメントが返ってきた。
両親へも必ず連絡をし、時々博物館内で研修仲間と写真を撮り、それを送って喜びを伝える返信をもらいもした。

「やっと終わった。あとは、期限までにレポートを送ればいいだけ」
ミカサは膝の上にパソコンを置いて動画を再生している。研修仲間のひとりがいつの間にか撮り溜めていたものを繋いで、日々の記録としてまとめ、全員に送ってくれたものだった。数秒ずつの動画を繋いだもの、写真を繋いだもの、数本ある。
一緒に過ごせなかった間が、どんな風だったのか、リヴァイにも観て欲しかった。

「みんないいカオしてんな。楽しかったか」
ミカサのウエストを抱いたまま、ディスプレイで再生される動画を覗き込んでいる。
二人でリビングの大きなソファに並んで座っていた。
「思ってたよりずっと楽しかった。舞台裏を覗けてよかった。どのひともみんなすごく真剣でマジメでパワフルなの! 穏やかで物静かなひとでも、仕事に捧げる情熱とかはすごく強いものがあるし。それに、みんな親切だったし楽しいひとばっかりだった」
「そうか」
「みんなSNSのアカウントとかメールのアドレスを教えてくれた」
「新しい友達ってヤツか」
「うん。そうなのかも」

パソコンをテーブルの上に置く。動画の中では時折歓声が上がり、誰かの笑顔が現れ、メンテナンス中の展示物が映り、働く人々の熱意が過ぎった。

「どうした」
「それでも、やっぱりリヴァイのことばっかり考えてた。楽しかったし、みんな素敵なひとばっかりだったけど。やっと、ホントにリヴァイとだけ一緒に居られる」

既に着替えも洗顔も済ませて、「戦闘」モードではないミカサがリヴァイを真っ直ぐに見つめている。
顔立ちはまだどこか幼い。けれど、表情にあったあどけなさはどこかになりを潜めたらしい。

「遠回しに誘惑されてんのか、俺は」

白い頬にかかる黒髪を耳にかけてやった。

「じゃあ、……いっぱい、して。朝も昼も夜も、一緒に居られる」
「泣いてもやめてやれねえが」

唇が、触れて、離れる。離れて、触れた。

「リヴァイだけのものになりたい」
「まだ足りてねえか」

耳朶をくすぐった吐息がミカサの後れ毛をはねて頚動脈の上で小さく爆ぜた。

「もう十分にもらったの。ただ、もっと欲しいだけ」

左胸の上に置かれた小さな手をリヴァイの手が握った。

「悪い子になったもんだ」
「おしおきするの?」

赤い唇からこぼれる甘い息が空気を揺らす。

「俺は悪魔だったか。なら、ご褒美やらねえとな」

ミカサは微笑んだ。
邪気のない、可愛らしい笑顔だった。


「ミカサ」

ベッドで枕を背にリヴァイが呼んだ。

「なに」

ミカサは満ち足りた身体を無理矢理に起こそうとしたが、リヴァイに目で制止された。横たわったままで隣に座る男の顔を見上げる。

「最初もそうだったが、…………何度かお前のこと、ゴムつけねえで抱いた」

ミカサは少し目を見開いた。

「うん」
「泣いてキレて怒ってぶん殴っていいとこだ。しねえのか」
「嬉しかったから、いい」
「そうじゃねえだろ」

ベッドの上にあるリヴァイの手に、自分のそれを重ねた。指が絡み合った。

「リヴァイが、自分と隔てるものがあると思うなって、言ってた。私も、……そんなものがないのがいいって思った。だから、嬉しかった。でも、……それで、ナニカあったとしても、それは私のせい。リヴァイに責任を押し付けたり、しない」
「オイ。いきなり俺を締め出すのか」
「気づいてたのに、ちゃんと、してってお願いしなかった。それをリヴァイのせいにするのは、おかしい」

手を引き寄せて、唇を押し当てる。やさしい、綺麗なゆび。すごく気持ちいい。

「一応お前の両親に殺される覚悟はしてる」
「だいじょうぶ。そんなことはさせない。私が護ってあげる」
「全くの冗談言ってるつもりはねえんだ」

ミカサの手を、それよりも大きな手が包むように握り締めた。

「私も、本気。でも、」
「ん」
「もし、万が一、そんな時が来たら、駆け落ち、してくれる? 私たちのこと誰も知らないところに行くの」
「あ?」

ミカサが起き上がった。

「リヴァイが殺されるのイヤだし、もっとずっと一緒に居たいし」

はああああ、と大きな長い息を吐いた。リヴァイは前髪をかき上げてミカサを見つめる。
お前のソレは本気なのかよ冗談なのかよ。わかりづれえな。

「おう。駆け落ちだろうが逃避行だろうがハネムーンだろうが、何だって付き合ってやるよ」

はねむーん。ミカサは固まった。

「不満かよ」

両腕が伸びてミカサを掴んで抱き寄せる。

「不満なわけ、……信じられない、何言ってるの、」
「泣いてキレるとこ、ズレてんな」

頭を撫でると、ミカサの両の目が見る見る内に潤んでゆく。

「とりあえず何もねえこと都合よく期待しとくけどな。腹は括っとく。……とっとと高校卒業しやがれ。駆け落ちだろうが何だろうが一緒に行ってやるが、話はそこからだ。あとな、万が一身体の調子いつもと違うとかあったら、すぐ言え。隠したらぶっ飛ばすからな」

ツケが回ってこようがお前の親に殺されようが、選んじまったもんはどうにもならねえ。
テメェのケツはテメェで拭けってことだ。

「リヴァイなんか、……ホントに、大ッキライ!」

ミカサは声を絞って泣き出した。我慢するなと言っているのに、抑えるクセが抜けないのだろうか。

「だろうな。俺がお前に心底惚れてるなんてあり得ねえのと一緒だ」
「!」

ミカサがリヴァイの首に手を回して抱きついた。いよいよ涙が止まらないらしい。しゃくりあげている。
泣かねばならず、抱きついてもいたい。どうにもせわしい。

「やっとおぼえたか。腕の使い方」
「うるさい!」

リヴァイの唇がやわらかな弧を描いたことを、ミカサは知らないままだった。



「これ、聴いたことある。確か、……『Let it be me』って曲」

もう何度ここに足を運んだことか。そろそろ借りた家も引き払う頃だった。馴染んだカフェの雰囲気を惜しみに二人で訪れた。

「俺が聞いたのとタイトル違うな。結構古いぞ。俺の親の世代なら知ってるだろうが。母がラジオでよく音楽聴いてたが、これもたまに流れてた」
「あ。確か、元はフランスの曲だって」
「だろ。俺が知ってんのは、『Je t'appartiens』」
「じゅ・たぱるてぃあん? 何て意味?」
「『私はあなたのもの』」
「そ、そう」

ミカサが思わず頬を赤く染めた。
リヴァイがその耳元に唇を寄せる。

「『私はあなたのもの、だからあなたの好きにして』って意味らしい」

ほんの一滴瑠璃を溶かし込んだような、ごく淡いグレイの瞳が艶やかに光る。

「あの甘ったるい声で、言ってみろよ」

ミカサは恥ずかしそうに目を逸らした。手は逃げられず、リヴァイの手の中にあった。

ミカサの未来と一緒に。
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2 Comments

璃果  

Re: 甘い~


いらっしゃいませ。
読んで下さったとのこと、ありがとうございます。
やった、甘いといわれると私の苦悩が報われる!(笑)
えろがですね、ええ、大変に苦悩いたしまして。
あまりに苦悩して今ちょっと抜け殻になってますよ。
うちのへいちょは基本ミカサスキーなのでどの形態(通常・現パロ・すくか)でもミカサに甘いです。そのつもりです。
また遊びに来てやって下さいませ。

うむ、絵文字、使えるのだよ!e-487

2017/10/09 (Mon) 22:07 | REPLY |   

ういろー  

甘い~

読みました!
甘いよー、ちゃんと甘い!
清掃員さんものすごく甘いじゃん!! どんだけミカサちゃんが可愛いんだよってくらい。
おまけに18歳未満お断り部分がすごいことになってた///
不快とか、そういうのはなかった。思ってたより描写が具体的だったけどw
幸せいちゃいちゃはいいよねー。
堪能しました。ありがとう~v-346

これ絵文字も使えるんだ。今気づいたwe-29

2017/10/09 (Mon) 04:37 | REPLY |   

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