狼と眠れる姫君

Pixivにて読んで下さってる方に向けての
書き下ろし(?)短編。

ホントに、お礼の為にだけ書きました。
よかった、ネタが降ってきて。
すごく光栄なタグを頂いて、そのせいか読んで下さる方が増えたのです。
びっくりした。

未発表が数本あるけれど、それはほかとの兼ね合いがあるのでまだ公開出来ないのです。なので、新規で。
昨夜ぶわーっと半分寝ながら打ち込んで、今日見たらなんか意味わからないとこがあったので(笑)、全面改稿して完成。

感謝の気持ちだけは込めました。
クオリティに反映されないのは仕様です…。


■現代パロ。仲良し(?)新婚夫婦なリヴァミカ。
み・なんとかの未来のおはなし、かもしれない。
ほんのちょっとだけびたーな甘い(つもりの)おはなし。


キャラは糖衣で覆われて変質しております。
平気な方のみオススメしております。
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ミカサの部屋には大きな円形のデイベッドが鎮座している。
円の真ん中でふたつに分けて使うことが出来、一方には円周部分に背もたれと折りたたみ可能な蛇腹式の日除けがあってソファとなり、他方は背もたれのない長椅子風になる。分けて離すとソファの方の足元にガラス天板のローテーブルが収納されていて、引き出して使えるようになっている。離さずに使用するとベッドのように利用出来るものだ。リゾートを思わせる籐製で、どこか涼しげに見える。ごく淡い上品なアイス・グレイの籐の本体、身体を横たえる部分のファブリックはあたたかみのある生成りだった。

たまたまリヴァイと出かけた際に見かけてミカサが興味を示した。リヴァイは気に入ったのだろうと思い、それを買い求めて自宅に配達させた。あまりにあっさりと部屋に出現したので、ミカサはとても驚いた。

リヴァイは危険の伴う仕事をしていることもあり、なかなかの高給取りである。それだけでなく、とある理由から金銭面での心配はある意味皆無な状態だ。
そもそもあまり欲がない。あれが欲しいこれが欲しい、という欲求が元来希薄なのだ。もっとも欲しかったものは、今自分と人生を共に歩んでいる。
唯一の贅沢は、茶葉だろうか。それでも、飲み切れる量を買い求め、なくなれば新たに購入する程度だ。茶器は良いものを用意したが、「あの」持ち方である。大切に使う限り、まず持ち手が壊れることもないだろう。よって、高い買物でもないと言える。
必要なものには惜しまず、不要なものは買わない。当たり前のことだが、それが徹底出来る。自分のために何かを購うことはほぼないのだが、ミカサには時折ぽん、と安価とは言い難いものを惜しげもなく与える。
たとえば、オーダーメイドのウエディング・ドレス。豪華な新婚旅行。ペアの指輪。共に暮らす一軒家。
不要なものへの出費は無駄だが、必要なもので多少高額でもそれが適正なら構わない、という考え方らしい。
正しいのだが、ミカサの感覚では安価とは言い難いものがほとんどなので、少し戸惑ってしまう。すると、迷惑だったのか、と尋ねられてしまい、もっと困ってしまうのだった。

何かを与えられるのは、迷惑などではない。ただちょっと申し訳なく思ってしまうだけだ。
リヴァイは、ミカサが何でも大切に扱うことを知っているので、長くもつだろうし気に入ってもらえるならそれで十分としか思っていない。
すれ違いというほどでもないすれ違い。問題は起きていないが、ミカサはいつも「こんなに?」、「いいの?」と思いながら、大事に使おう、堪能しようと心に誓うことになる。

思えば、前世、調査兵団に属していた頃ですら、リヴァイはそうだった。薄給だったこともあるが、自分にはあまり使わず、最低限必要なものを揃えるのみ。当時も興味を示したのは良質の茶葉くらいではなかったか。それでいて、ミカサには指輪や上等な菓子などをひょいとくれてしまう。

やはりと言うべきか、そのシンプルでおしゃれなデイベッドは、お気に入りのひとつになった。そこで過ごしたいが故に自室で過ごすようなものだ。そもそもこの自室として使えばいいと示されたこの部屋も広々としている。子供の頃過ごした家の自分の部屋とはまた違った意味で「お姫様のお部屋」だ。自分が好きなもの、好きな家具が存在し、せせこましさもなくゆったりとくつろげる。
リヴァイ自身は、お互いに利用する「図書室」でたまにゆったり過ごす程度で、特別自分だけの個室を持とうとはしないのに。
その分、ここに来て一緒に居てくれるから、いい、のかな。そう思うことにしている。私の部屋で、二人のための部屋。

ベッドでくつろいでいると、色々なことを思い出す。色々なことを考える。大抵は、とても大好きで大切な、結婚して間もない愛しい誰かのこと。

この家に越してくるまでは、リヴァイが暮らしていたビルの一室を仮の住まいにしていた。リヴァイが借りていた、ビルのワンフロアにある一部屋。広いだけで最低限のものしかなかった。給湯設備、簡易キッチン、風呂、そして寝起きする空間。ミカサの目を据わらせたのは、ケトルとポットとカップと茶葉はあっても、鍋や皿、食事出来るような食器や道具、食材がないことだった。
「また、食事していなかった」
「皿がねえだけで、食ってはいたから、安心しろ」
「出来ない。何を食べていたか、言える?」
「…………デリの惣菜。外食。デリバリー」
「具体性がない。やはり、食べてない」
「色々だったから具体性がねえとは考えねえのか」
「ない」
「……おう……」
リヴァイは何かを諦めたように黙り込んだ。
「ので、私が頑張る。大したものはつくれないけれど、『食生活』と呼べるものは取り戻せる、はず」
「食器、買いに行くか」
ミカサの顔が輝いたのを見て、追及からは逃れられた、とリヴァイは内心安堵した。それが見て取れたのだが、ミカサはとりあえずスルーしてやることにした。相変わらず、ちゃんと食べてない。小さくため息をついた。
「っ!」
ミカサはとっさに押しのけようとしたのだが、ダメだった。リヴァイの腕が肩を抱えこむようにして自分を抱き寄せている。
「食生活の充実も結構だが、性生活も勿論充実させてくれるんだよな?」
「耳元でヘンなこと、言うな!!」
「大事なことだろうが」
もう!! もうもうもうもうもう!! あまりのことにことばが出てこない。
「まあ、そっちは俺が頑張ることにするか」
が、頑張らないで欲しい、そんなこと……!

ミカサは枕と兼用のクッションを潰さんばかりに抱いてデイベッドの上を転げ回った。何でこんなことを思い出してしまったのか。おまけに、頑張られてしまったことまで思い出してしまった。うにゃあああああああ、と声には出せずにミカサは悶絶する。

時々、ぼんやり思う。リヴァイは、ひとりで居るのを好む一方、同じくらい、それがあまり好きではないのではないか、と。

前世では調査兵団幹部故に個室を有していた。誰にも邪魔されず、自分だけの時間を過ごせるのは、ひとと常につるみ馴れ合う訳ではないリヴァイにとっては最低限必要な環境だっただろう。
しかし、ミカサを頻繁に招いてくれていた。
どこか人目につかない場所で落ち合う、という方法もないではない。しかし、見回りを避けねばならず、ひとの気配に気を配らねばならず、落ち着かない。何よりその「どこか」があったとして、清潔さという点では大いに疑問が残るだろう。……リヴァイにとっては。

お互い、会話が弾むタイプとは言い難い。コトバも足りない方で、それが二人ともである。それでも、ゆるゆると紅茶を飲みながら、ぽつりぽつりと他愛のない会話を交わしていた。その日の訓練であったこと。かつて過ごしていた土地での思い出話。気になっている話題や噂話。飲んでいる茶葉の味わいや品種のこと。最初は訪れた沈黙にいたたまれなさを感じたりもしたが、慣れるとその沈黙はそれはそれでほどよい静けさに思えた。
まあ、長椅子やら膝の上やら寝室で、あんなことやそんなことをされたり、も、していたような気はするのだが。むしろだんだんそちらの方が増えたような気が。

ミカサはクッションを抱いてごろごろと転がり悶える。ああ、また余計なことを! クッションはこのままだと今生の役目を終えてしまうだろう。もみくちゃもいいところだった。

リヴァイって、キスとか抱っことか、好き、みたい。安心するの?

自分は、そうなのだが。体温を感じられるのは、とても安心する。子供の頃、恐ろしい記憶が甦って稀に夜泣いてしまうことがあった。それでも、エレンが手を繋いでくれたり、くっついて眠ったりすると、張りつめた気持ちがやわらいでいくのがわかるのだ。悲しい気分の時に、エレンの母が頭を撫でてくれたり、アルミンにもたれておしゃべりしたりすると、そんな気分が半減したものだった。
誰にでも心を開けた訳ではないけれど、触れ合うのは好きだった。ひとりではないと思える。

リヴァイはよく抱きしめてくれるし、キスもくれるし、一緒に居てくれる。べたべたされるのはイヤなのではないかと思って、自分からは求めたことがないのだが、向こうからくれるのだ。それも、割と、頻繁に。
共に暮らしていた子供の頃を思い起こせば、よく一緒に居てくれた。だが、それは気を遣ってのことだと思っていたのだ。年齢差があって共通の話題があるでなし、興味の向く先もかなり異なっていたはずである。それでも厭な顔を見せず付き合ってくれていた。大人の今、そんな風に我慢してまで一緒に居ようとはしないだろう。
最初は、それを好むことを悟られて、気遣って与えてくれるのだと思っていた。でも、どうも違うような気がする。今のように部屋でくつろいでいると、リヴァイがふらりと来て隣に座ったり横になったりする。ミカサの膝を枕に寝そべり、歌を歌うことを求められたこともある。距離を置くと、むっとされるのもよくあることだった。
リビングに居ても寝室にいても、同じだ。距離が近く、体温や吐息を感じられる状態を好んでいる、ように思えてならない。手を握ったり、抱き合ったり、唇を重ねたり、…それ以上も。

男のひとだから、その、「そういうこと」がキライではないし、「そういうこと」も求めているんだとは、思うけど。だって、今もそうだから。昨夜とか。今朝まで、離してくれなかったし。ずっと、……

また余計なことを思い出してしまった。ミカサは更にごろごろと転がる。クッション昇天の瞬間までカウントダウン開始。

リヴァイも、ひとりだったからだろうか。子供の頃の親との死別、仲間や部下との別れ。別ればかり何度も繰り返している。同じだけ出会いも繰り返しているのに、手に入れた途端失う恐怖にすり替わることを実感する方が先になる。
今日隣に居たものが、明日も居るとは限らない毎日。

「ひとりは慣れてる」とつぶやいた時の、遠い目が忘れられない。そんなことに、慣れちゃダメなのに。

誰かと一緒にいるあたたかさは、常に当たり前にもらっているひとには、どれほど愛しいものか、わからないかもしれない。たったひとりという寒さとさびしさは、とても堪える。足元が急に崩れ去って、奈落の底に堕ちて行くような漠然とした不安みたいなものがいつもいつもある。ひとりという事実に、責めたてられるような感覚。暗闇に呑まれて、それに染まって、誰にも見つけてもらえないような気持ち。怖くて、さびしくて、かなしい。

ミカサはあれこれ考えているうちに、少し哀しくなってしまった。今、一緒に居たい。ひとりじゃないと実感したいし、リヴァイにも同じように感じて欲しい。

リヴァイはまだ仕事中だ。
結局、今も仲間や部下に囲まれる日々を送っている。あの世界に居た頃に比べれば、ずっとリラックスしていられるが、それでも危険は皆無ではない。あの頃と同様に、常に率先して矢面に立ってしまう。
ひとりで居るのが好きなくせに、群れの中に居る。棄てられないの。どんな理由であれ、求められると、無碍に出来ない。
馴れ合うのはキライなくせに。距離を置くくせに。でも、棄てられないの。知ってる。
損な役回りなのを知ってるのに、みんなの前に立ってしまう。

だから、私があなたを護る。一生、一緒に居るの。離してあげない。ひとりになんてさせてあげない。

「リヴァイってさ、狼みたいだよね」
ハンジに言われたことがある。
「どうしてですか」
「狼の群れってね、番は基本一組だけなんだって。最上位に位置する雄と、それと番う雌の一組のみらしいんだ」
そういえば、犬や狼は群れて社会を形成する動物だった。
「でさ。番の雌に、狼の雄ってのは、仲睦まじくそばに寄り添って、甲斐甲斐しく世話焼いて尽くすんだってよ。ははは、いちゃいちゃべたべたするってワケ!」
「どちらかと言うと、豹とかチーターみたいなカンジかと思ってました」
豹やネコ科の動物は、群れでは行動しない。単体や自らのパートナーと子供という単位だ。
「ああ、それもなんかわかるなあ! でも、あの頃のこと思い出しても、なんか狼ってカンジだよ。あなたを唯一の相手として従えて、部下引き連れていく姿は、まさにね。狼って社交性の生き物だよね。群れの仲間とも触れ合って、互いに気遣い合うものなんだってさ」
ああ、それは、……なんだか、わかる気がする。
「まあ、どっちでも、悪くないよ。豹にしろ狼にしろ、子供は大事に育てるって言うからね。狼の雄が特に甲斐甲斐しいのは、その子供を授かった時らしいよ。妊娠した雌に獲物を持ってきてあげて、生まれた子供が巣から出られるようになれば面倒を見るし」
こども。ミカサは少し頬が熱くなったのを感じた。
ハンジは楽しそうににやにやと笑っていた。
「狼なら発情期は年一回だけど、人間だと年がら年中昼夜も問わないから、大変だねえ、ミカサ」
おい、そこは余計だメガネ!! ミカサの内面に、夫の悪しき影響が出始めているらしい。

ミカサは身体を起こすと、自分の部屋を出た。寝室に向かい、それを手に取るとまた戻った。デイベッドに上がると、横になる。

ちょっと、眠い。リヴァイのせい。リヴァイの馬鹿。お洗濯とか、しなきゃいけないこと、あるのに。
眠い。



帰宅しても、気配がない。施錠しておけと言っておいたのにしていない。ということなら、今たまたま階下に居ないだけで、在宅は在宅なのだろう。リヴァイは鍵を玄関にある専用ボックスに収納し、ホールを歩く。
リビング、ダイニング、キッチンには居ないらしい。ランドリーも風呂場も違う。やはり二階か。
階段を上がる。
足音を聞きつけて、大抵は自分を探しに来るのだが、今日はそれがないらしい。少し苛立った自分に気づいて舌打ちをする。

「ミカサ」

呼んでみたが、やはり来る気配がない。
足は迷いなくミカサの部屋に向かった。大きめの角部屋で、家を購入する前の下見の段階でミカサに割り振ろうと決めていた一室に。

「入るぞ」

ドアは開いていた。声をかけても反応がない。中に歩を進めると、思った通りデイベッドに横になっていた。クッションからシーツにかけて流れる黒の絹糸の髪。そっけないほどあっさりとしたデザインのシンプルなドレス。
眠っている。
明け方まで眠らせなかった自分が悪い。リヴァイは小さくため息をつく。
出来るだけ軋ませないようにして、ベッドに腰掛けた。ぎ、と鈍い音がしたが、ミカサは起きなかった。
寝顔は少しあどけない。髪を掬おうとすると、するりと逃げてしまう。コシのある艶やかな黒髪は、褒めて以来短く切らずに長さを保っている。頬にかかる一筋を指先で耳の方に流してやると、改めてその顔を見つめた。
無防備なものだ。
手をつき、ゆっくりと上体を降下させる。そこで気づいた。

ミカサは、リヴァイの寝間着を抱いて眠っていた。昨夜着ていたものを。唇を寄せ、離すまいとするかのようにしっかりと抱きしめている。何故かくたびれ切ったクッションが近くにひとつ。

「どうせなら、抜け殻じゃなく、本人にしろよ。帰ってきてやっただろ」

いとおしげに見つめながら、つぶやいていた。そして、こめかみや額の近くに、そっと唇を押し当てる。髪を一房手に取り、それにもキスをした。この髪も、自分のものだ。触れていいのも、なめらかさを知っていていいのも自分だけだ。

瞼に口づける。一瞬震えたように動き、睫が揺れた。

「リ…ヴァイ、……」
小さな唇が音をかたち作る。わずかにかすれた甘い響き。
「そんな声で呼ぶんじゃねえよ。思い出すだろうが」

昨夜、自分の名前を唱えたせつなげな声や、やわらかな濡れた肌の感触を。

「おかえりなさい」
「ああ。今帰った」
少し寝ぼけた声で歓迎され、リヴァイの唇がほんの僅かに弧を描いた。

「はい。抱っこしてあげる」

ミカサの両の腕が唐突に自分の前に突き出された。それは少し招き入れるように左右に開かれている。
慈しむような顔で微笑まれて、リヴァイはそのままミカサの腕の中になだれ込んだ。断りもなく唇を塞いだが、ミカサは拒まずにやさしく腕を絡めてきた。

「おかえりなさい、リヴァイ」

耳にまとわりつく、甘い声。誰に呼ばれるより慕わしい。

「お前、また、夜寝られねえぞ」
「ん。いい。平気。でもリヴァイも会社に行かせてあげない」
「イカせてもらわねえと、困るんだよ」
「じゃあ、一緒にいってあげる」
「一緒に、か。その台詞、忘れるなよ」

耳にキスをされる。可愛い妻が寝ぼけるのも悪くない。こんな歓待をされるのなら。
ミカサは明日には今のことも自分が言ったこと内容も後悔していそうだが、それはそれで一興だろう。



おかえりなさい。ここは、私の家。私の家は、あなたの家。
だから、安心して甘えて眠って。

わたしだけの、かわいいひと。護ってあげる。どんな何があっても。
ずっと、ずっと。



おひめさまのねむりをさますのは

みちたりたかおをした

ぎんいろのめのくろいおおかみ。
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