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【お試し】茶寮黒猫亭 序:初音【全文掲載】

璃果

璃果

茶寮黒猫亭

折り本で配信予定の「茶寮黒猫亭(さりょうくろねこてい)」の序章「初音(はつね)」をサンプルも兼ねて掲載します。
続きも読んでもいいかなーと思ったら、配信後ネップリにてお手元に取り寄せてお楽しみ頂ければと思います。

サンプルが一部だけってケチくせえな! というご意見を耳にしたことがあったので(笑)、まるっと1本そのまんま公開です。こちらも1話目と一緒に配信しようかと思っているので、全部揃えるのが好き、という私みたいな方はゼヒw
ただ、プリントにフルカラーだとひゃくえんもかかってしまう(白黒ならにじゅうえん!)ので、配信終了後このぶろぐで公開されるのをお待ち頂くのもひとつの手でございます。

和風かふぇ《黒猫亭》の店長リヴァイと、そこで給仕役で働くJKミカサのまったりライフ(全年齢)

:仲良くして頂いている方とスイパラ第3弾の和カフェな二人を見て盛り上がった妄想から生まれた、かなりゆったりのほほんテイストの短編連作(の、序章)
ヤマとかオチとかイミが行方不明。さがさないでください
常になんか食ってるお約束のりか小説
:何も起こらない敵が攻めてこないお前がずっと嫌いだったとか言わない
:原作の重さからちょっと逃れたい方には多分おすすめ
:現代の日本かそれに良く似たどこかが舞台
:リヴァイ店長が削ぐのは食材、ミカサにこれでもかと餌付けしまくる安定のりか長
:りか小説にしてはりばいさんが割とマトモなオトナ
:いろいろもだもだほのぼのもぐもぐしているりばみか

ものすごくユル~いカンジなので、そういうのがお好きな方には楽しめるかもしれません。
相変わらずののーぷらんなのでどうなることやら。

基本、ずっとユルくてだらーっとしたおはなしです。

配信までに手直しが入ったらご愛嬌、ということで。

20181127-28~
20181216-1217
berry-sandwitch.jpg

「店長。五番、追加で抹茶小倉サンデーを二つです」
「おう。二番上がった。頼む」
「はい」
 ミカサは伝票と置かれた料理を確認すると、トレイを持って客席に向かった。ちょこちょこと二匹の黒猫があとを追いかけたために、客席から小さな歓声が上がった。
「お待たせ致しました。かれーうどんとおにぎりです。右が鮭、左が梅です。ごゆっくりお召し上がり下さい」
 仕事上がりらしい女性に袂を押さえながら差し出すと、ミカサはさりげなくぐるりと店内を見渡した。お冷、足しにまわろう。そう思いながら足元を確認して歩き出す。猫を蹴ったりしてはまずい。韓紅の女袴の裾の下をくぐって遊ぶ姿を見て、客の誰もが相好を崩した。やっぱり、猫、居てよかったと思う。
 お客さんが一口食べて嬉しそうな顔するのを見るのは、好き。
 カウンターにあるスペインガラスのピッチャーを手にするとゆっくりと客席をまわった。落ち着いて料理を楽しむ客がほとんどなのも気に入っていた。騒ぐような輩は居らず、食事やデザート、茶の香りや味わいを楽しんでいるのがよくわかる。
 飴色の空間にやわらかい橙色の明かり。店内の雰囲気も好みだった。いつもやわらかな陰翳に包まれて穏やかだった。店の片隅に置いてある蓄音機型のプレイヤーから時折流す音楽も心地いい。ゆったりしたアンティーク調の椅子は背もたれと座面が布張りでふっくらと当たりがいいし、セピア色のテーブルはほどよい重厚感があった。オーク材の本棚には洋書の絵本や画集、レトロな黒猫のぬいぐるみや古びた色ガラスの瓶、ボンボニエールが並んでいる。客として訪れるのはもちろん最高なのだが、こうして働けるのも気分がよく楽しかった。
 大正浪漫風、って言えばいいの? すごく素敵。店長のシュミ? 少し意外。
 《春夏冬中。珈琲ナシ。猫ガオリマス。》
 入口のドアの前に立つと左斜め、目の高さ。下げられた長くやや大きめの木札にはそんな文言が書いてあった。カフェではあるが、珈琲は出さない。抹茶、紅茶がメインで、茶と呼べるものは出すのだが、珈琲だけは存在しなかった。それは、ポリシーというよりも、実は好みの問題だった。
 店長、珈琲飲まないから。
 俺が美味いかどうか判断出来ねえもの出せねえだろ。そう言った。
 自分が飲まないものはすなわち味の判断が出来ないもの、クオリティを保証出来かねるものとして出さない、という方針なのだ。提供する料理やサービスには責任を持つ店長らしい、と思う。
 猫は、…私のせい。だって、家に置いておくの、可哀想だったから。連れてくるようになって、正解だった、と思う。猫たちはさびしくないし、こうしてお客さんも呼んでくれるし。猫が苦手なひととかアレルギーのあるひとには申し訳ないけれど。
 客のグラスに水を満たし終えてまたカウンターに戻ると奥から小さく声がした。
「ミカサ。そろそろ一番の抹茶セット、出せそうか」
 改めて確認すると、一番テーブルの客はどうやら食事が終わりつつあった。店長って、なんでこういうタイミング、わかるんだろう。
「はい。お下げしてきます」
「ん」
 客の了承を得て食器をトレイごと下げた。カウンター奥で待機していた男がそれを引き取り、新たなトレイをミカサに差し出した。
 ぽってりとした黒の茶碗に、まろやかな緑。細やかな泡立ちとふわりと立ち上る香りに密かにうっとりした。唐津焼の粉挽の茶碗もいいけど、やっぱり黒の見込みにお抹茶って映える。ミカサはひとりほくほくしながら欲しい食器のことを思い描いた。ここで働くようになってから、和食器が気になるようになった。
 寒くても店内は暖かいため、冷菓の類もよく出るのだが、やはり抹茶と菓子や甘味のセット、紅茶とケーキのセットも好まれた。食後のデザートに追加する客も多い。食事の類を注文した客ならば、金額はアップするものの、何がしかの茶と干菓子のセットを足すことも出来る。
 今月の菓子は鶯餅と雪の結晶の形をした干菓子だった。「風花」という菓銘がつけられているその干菓子はミカサが店長と呼ぶ男が懇意にしている菓子舗から卸していた。
 店長のつくる栗の茶巾絞りとかもすごく美味しい。上品でいくらでも食べられそうな気がする。この前試作してたどら焼きも、信じられないくらい美味しかった!
 客に料理を供すると、また笑顔が広がった。黒猫二匹は店の片隅に置いた猫ちぐらに収まって店内を眺めながらうとうとし始めた。ミカサによってりぼんとすかーふと名づけられた猫たちは、今では立派な看板猫だった。猫見たさに通う常連も出来たほどだ。猫がそばに寄ると目を細めて撫でてくれる。
「ミカサ。お前、賄い食え」
「え、でも、」
「いい。これくらいなら俺ひとりで回せる」
「じゃあ、おことばに甘えて」
「おう」
 厨房から出てきた「店長」は、小柄な男だった。ミカサが比較的背が高いこともあるのだが、それを差し引いてもおそらく小柄なほうだろう。一七〇センチのミカサよりも一〇センチほど低いのだ。
 昔の書生のような出で立ちで、袂が邪魔にならぬように襷掛けしていた。足元はミカサと同じく編み上げのブーツだった。ミカサはミカサで桃色の着物に韓紅のあでやかな袴を身に着けている。《黒猫亭》では、それが二人の「仕事着」だった。ミカサなどは白のピナフォアにブリムまでつけており、「和風カフェ」を標榜する店にはぴったりなのだが、ミカサにとってはややコスチューム・プレイ的に思われて、気恥ずかしさがまだ残っていた。
 ……今日の賄いも、豪華。というか、これ、賄い? 「育ち盛りは食え」、いつもそう言うけど。「残したら殺す」っていうのもどうかと思う。残さないけど。
 黒い皿の上にはベシャメルとデミグラスのダブル・ソースがけの鶏つくねのハンバーグ、付け合わせには人参のグラッセとほうれん草のソテー、マッシュド・ポテト。メインだけでもかなりのものだが、これに小さなサラダとスウプまで添えてあった。当然、つやつやのごはん付きだ。
 厨房に置かれた小さなテーブルがもはやカフェの別席に見えた。ミカサは音を立てないように椅子を引いて腰掛け、手を合わせて小さくいただきますを唱えた。
 吸い物を啜った。…はぁ。なんでこんな美味しいの? とろろ昆布と鰹節にお湯注いでお醤油ちょっとたらしただけなのに!
 店内の気配ややり取りから察するに、客が二組会計を済ませて帰ろうとしているらしい。時計を見上げると確かにそんな時間だった。オーダー・ストップの時間を五分過ぎている。ミカサは口を忙しく動かして食べる速度を上げた。後片付け!
 それにしても美味しい。料理の腕は確か。なんなの、あのひと。加えて愛想が枯渇してる。客商売なんだから、もう少し笑うべき! 自分を棚に上げて勝手なことを言い、またごはんを口に入れた。甘みがあってふっくら。悔しいくらい美味しい。
 男が厨房に戻ってきたかと思うと、冷蔵庫に向かった。デザートを提供出来ると踏んだのだろう。てきぱきと実に無駄のない動きで、果物を刻みアイスクリームを盛り付け餡を載せ仕上げてゆく。店長の手の動きって、なんだか綺麗。舞踊とか案外うまかったりする? 埒もないことを考えながら料理の美味さを噛み締めた。
 ひとくち食べるごとに時折感心したようにため息をついた。男はそれをちらりと見ると完成させたサンデーをトレイに載せて客席に向かって出て行った。
 食べ終えた頃に男が戻ってきた。手にはトレイを携えていた。賄いの美味しさに浸ってて気づかなかった! ミカサは慌てて立ち上がろうとした。
「オイ。デザート食ってからだろうが」
「え! いえ、でも、」
「食って飲むのもお前の仕事だ、味見係」
 目の前にガラス器に盛られた可愛らしいケーキのようなものが出現した。
「来月の限定、パプロヴァつくってみた。桃の節句あるから、あからさまに女の客狙いだな。果物何がいいと思う。試作はとりあえず苺な」
 ナニコレ! デコレイション、可愛い…! 店長、その顔でコレつくったの? ミカサは失礼極まりない感想を心の奥に留めた。
 謝辞を述べてフォークで切り分けたそれを口に含むと、ミカサの顔が輝いた。男はそれを見て湯を沸かし始めた。感想を聞きながら紅茶を飲むのも悪くない。
 いつの間にか足元に猫二匹がまとわりついていた。なぁなぁと小さく鳴いている。
 もう少し待ってね。お掃除と片づけが終わったら帰るから。
 ミカサは口の中で融けてゆくメレンゲと瑞々しい苺を味わいながら考えた。みんなで一緒に帰る。なんだか、すごくしあわせな響き。
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2018/12/17 (Mon) 09:12 | EDIT | REPLY |   

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