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帰郷

璃果

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CAUTION!:「進撃の巨人」最新105話未読の方はここから先読まずに引き返して下さい。荒ぶってしまい、キャプションからしてネタバレ満載です。

そして、何でも許せる方のみ、どうぞ。

みんなに愛されてるサシャが、そのみんなと連れ立って自分の故郷に帰る、それだけのおはなしです。
みんなサシャが好きだし、サシャもみんなが好き。きっとそう。

念のため、もう一度。
105話を未読の方はお控え下さい。















別マガ6月号発売数日前、ミゴトに被弾致しまして。おま、よりによってソコうpしてんのかよ! な画像を、大変にご親切な海外勢の方に見せて頂きましたよ。そんな画像何で誰でも見られる場所に貼っておくのよ…orz 海外は色々ゆるゆるらしいけれども、……それにしたって。

大変衝撃を受けました。その日からぐるぐるずっとそのことが頭の中を回ってました。「余計なことしやがって!」もそうなんですが、そのコマが示唆する展開とか内容がですね、…。

で。本誌。読みました。

この日が来ちゃったんだなあと思いました。

コニーはやっぱり仲間思いのすごくいい子で、ジャンはやっぱり色々辛そうで、アルミンとミカサが泣いてたのが印象的で、久々にエレンがちょっとエレンらしい顔をしてたなあと思いました。

ミカサがあんなに泣くなんて。エレンとアルミンだけじゃなくなってたんだと強く実感して、良かったな、と思う反面泣けました(兵長が大怪我したりしたら動揺見せたりするのかな…)。ちゃんと仲間だったんだなあ、そっかあ。アルミンがまた慟哭してるのがわかる表情だったし。つらい。

不思議と、自分が死ぬとこは想像出来たとしても、自分の近しいひとのそれって、想像しないものじゃないですか? 厭だからなんでしょうけども。だから、どうしてもいつもどんな状況であれ、揺さぶられるように思います。そもそもそんな事態を考えないから。
誰も、今隣に居るひとの「未来」を黒く塗り潰さないじゃないですか(リヴァイは過酷な幼少期を過ごしてるからある程度腹を括っていて、だからこそ「今隣に居るヤツが明日も居るとは限らない」って言うんだと思うんですけど、だからって死んでも平気じゃないんですよね。そこが兵長の人間らしさ、美しさだと思います。あんな環境にあっても、それを失ってない)。

ハンジとリヴァイもやはり近しい部下(何より自分たちよりずっと若い)にはそれぞれに思うところがあるんだなあ…。あんな危険極まりない作戦と状況で、誰かが命を落とすかもしれない可能性は低くない。それでも、やっぱり、失うのはショックなんだな、と。ハンジとリヴァイ、大人の表情は若手とはまた違う重みとか衝撃があります。
特にリヴァイは冷徹そうに見えるだけでちっともそうじゃないことを改めて感じました。まあ前々からでしたけれども。改めて。近しい部下が亡くなることをとてもとても惜しんでる。
エレンを蹴りつけて表情を歪めて詰ったのも、何と言うか、……。

サシャも大好きだなーとか思ってましたが、結局は、それぞれも大好きなんだけど、104期の連帯とかがやっぱり好きなんだろうと思います。

エレンとジャンが好き放題言って胸倉掴み合ってケンカしたり、コニーに天才だなって言うエレンと調子に乗るコニーとか、おばかやらかすコニーとサシャとか、兵長とテーブルを囲む姿とか。なんやかやで一緒のテーブルや近いテーブルで食事する(これは大事。とても大事)とことか。リヴァイ班として行動を共にして助け合って。

随分前に、「降る雨と少年少女」という小さな連作めいた一篇を書きました。
その中で、コニーに対してのサシャの台詞として、自分の村に遊びにきたらいい、と言わせたことがありました。いずれ捏造してひとつのお話を書きたいと思ってました。特にカップルっぽさを意識せず(そして、してもいい)、なかよしの二人が休暇をただきゃっきゃ楽しんでる、ほのぼのしたヤツがいいかな、と思ってました。

それを、書こうと思ってたんですけど。なんかちょっとだめでした。別なものが出来た。

でも、サシャが故郷に帰るおはなし、ではあります。いろんなこと・ものを捏造しまくっております。御了承下さい。これから書くつもりのあるおはなしの一部もちょっと混じってるので、「???」となられるかもしれませんが、その辺りはスルーで。

全て捏造です。だけど、こんなんだったらいいなあと。
みんなに愛されて、みんなを大切に思う、みんなの大好きなサシャ。そして、なんとなーく、ちょっとズレちゃってマイペースなサシャ。

サシャ、可愛かったなあ。そして、美人さんになった。びっくりするくらい。
ゆっくり休んで欲しい。

作中、台詞に地味~に大分方言(というか、九州北部方言のちゃんぽん…)が混ざるのですが、かなりなんちゃってです。雰囲気が出れば、というくらいで。方言は同じ地域でもちょっと学区が変わったくらいで音声的に微妙な差異が生じたり語彙がやや異なったり使用頻度が変わるものなので、追究すればキリがないかと思います。年代、性別、そういったものでも変わってきますし。
ですが、大分ご出身の方や詳しい方はご不快に思われるかもしれません。
その辺りはお許し頂きたいと思います。


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「まさかみんなで行けるとはなあ」

 コニーが穏やかな顔で言った。

「そうだな」

 ジャンはわずかに表情が硬い。何か、不満なんですかね? サシャは少しばかりその面長の顔を見た。髭が似合うトシになっちゃったんですねえ、ジャンも。

「エレン。もう少しこっちに詰めた方がいい。そんなヘリでは安定しない。腰や身体を痛めるかもしれない」

 ミカサが相変わらず気遣ってエレンを見るのだが、当の本人はさしたる感慨もなさげにどこか遠くを見ていた。ただ、ぼそりと「ああ」とだけ返し、何をするでもない。アルミンは気遣うミカサの顔や様子をうかがいはしても、何故かエレンにはあまり視線を投げかけようとはしない、ように見えた。

「ミ、ミカサの言う通りですよ、エレン。もう少し詰めた方が。まだこっちにも余裕ありますし」

 サシャの気遣いなど意に介していないようにエレンは微動だにしなかった。いつものことですけどね。でも、…昔のエレンはもう少し感情が豊かでしたよ。そっちの方がいいと思います。ちょっと…暑苦しかったですけど。

「ミカサ。お前は相変わらずエレンの子守りか」

 そうでした。兵長も居たんでしたよ! おそるおそるその方向に顔を向ける。ああ、だからジャンはちょっと表情が硬いし、エレンもそうなんですね! アルミンはしっかりしてるけど元々どこかおっとりさんで、ミカサはエレンの心配を。いつもの私たちですね!

 はあ。いいお天気ですねえ!

 サシャは思い切り伸びをしながら空を仰いだ。風は穏やかで冷たくもなく、陽が照りつけるでなし。雲がゆるゆると流れて天の青が目に眩しい。幌すらない荷馬車は整った客室を持つ馬車と違って乗り心地がいいとは言えないが、こんな天気の日にこの景色の美しさや空気の心地よさを堪能しない手は無い。

 んんんん、最高です!

 そう。最高ではないか。村に帰る日がこんなに穏やかで気持ちのいい日に当たるとは! しかも、みんなも一緒ですよ。そうですよね、大変だったんですから、私たちだって少しくらいこうしてのんびりしたっていいはずなんです!

 さらさらと髪を風に洗わせた。

 これくらいの長さで正解でした。ちょっと結い上げるとほどほどに収まってくれて。ミカサは切り過ぎですよ。確かに新しい立体機動装置の邪魔になる可能性はありましたが、結えば大丈夫じゃないですか。……そうですね、伸びてきてた、…伸ばしてた、と言うべきですかね、その髪を、ばっさり、いったんでした。切り揃えてあげたの、気に入ってくれてるんですよね? 綺麗な黒髪です。もったいない。

 つい今の状況に気が緩んでニヤけてしまった。慌てて口元を引き締めてぐるりと見回した。慣れ親しんだ顔しか、そこには居ない。団長のハンジ。その隣に兵士長であるリヴァイ。二人は荷馬車の後ろから見てもっとも奥、御者の後ろの席にやや離れて並んで座っていた。向かって右のハンジの並びの座席にはジャンとアルミンとコニーが腰掛けていた。リヴァイの側の荷台の壁面に沿った座席にはエレン、ミカサが席を占めている。サシャはミカサの隣だった。

 ええと。エレンが兵長とミカサに挟まれているのは、万が一に備えて、の頃の慣習みたいなものでしょうか。でも私がミカサの隣、というのは、……何かやるとでも思われてるんですかね…。肉でも隠してるんですか!? いえ、あれば匂いでわかるはず! 私には隠せませんからね!
 向かい側のコニーを見ると、ふわりと微笑まれた。
 コニーも大人っぽくなりましたねえ。昔はもっと夏のおひさまみたいな笑顔だったのに。今はちょっと穏やかでどこか控え目ですね。かっこよくなったなあって思ってるのはまだナイショです。

 思えばコニーが言い出したのだ。

「前に、…お前の村遊びに来いって、言ってくれてたよな。行くか。みんなしてよ。…な?」

 とても優しい笑顔で。
 ふふふ、とサシャは笑う。つい兵長の様子を確認してしまった。任務中ではないとは言え、笑ったりしては何か怒られてしまうかもしれない! だが、リヴァイは無言だった。表情に明るさはない。元々なのだが何となく気になった。しかし、自分が考えたとてわかるものでもないだろう。小さくため息をつく。兵長は厳しいひとですから。意外に優しいんだって、わかってきましたけどね! 意外と私たちが何かこなすと、ちゃんと褒めたり労ってくれるんですよね。

 あの日は雨でした。だらだらだらだら、もう降って降って! 食べられる訳じゃないけど、おなか空いて食堂行ったらコニーと入口でばったり出くわして。中には実はジャンも居て。懐かしい!

「はあ。あ、コニー、いつか私の村に遊びに来て下さいよ。私が獲物捕まえてきて、美味しいの、ごちそうしますから! 私はそれ以上に食べますけどね! 獲ったひとは沢山食べていいんです!」
「お、いいな! お前んとこの村、俺の村と同じ区だしなあ。行ける距離だな! 馬借りりゃ楽勝か!」

 雨でしたよ。調整日で、みんなだらだらしてました。うん。そうだった。ホントに、懐かしい、…。

 こうして、兵団に入っていなければ、同じ南区でもコニーとは知り合っていなかったかもしれませんねえ。ジャンやエレンやミカサにアルミン、それに兵長にハンジさん。きっと知らないままでした。山ん中走り回って獲物追っかけてとっつかまえてち、しとるだけやったろうなあ…。そんで、よそもんに腹立てて、獲物が獲れる獲れん減っただ何だで大騒ぎして。

 ハンジさんは、その、変人だと思ってましたよ。でも、とても冷静な判断が出来るし、行動力もすごい。あのエルヴィン団長が単に変わったひとを分隊長にまで任命される訳ないですもんね! 頭もいいんやもん! ただ、巨人のこと語り出したらもうしゃーしいてしゃーしいて!! 止まらんくなるけんあれはかなわんやった…。
 兵長は、おっかないと思ってたし、実際おっかなかったです! ヒストリアを脅した時なんて、このひとはホントは悪魔やなかろうかち思ったくらいで、……でも、それだけのひとのはずが、ないですよね。よくわかりました。怪我しても声一つ上げずに私が傷口縫うのに耐えとって、…誰よりも強くて強くて。あと、芋の皮剥きが上手です! 薄く薄~く剥くんですよ! 美味しく食べられるところが増えました! 刃物ならどんなものでも扱えるんてすね! すごいです! さすが!!
 ジャンは、マルコが死んでから、ちょっとだけ変わった、と思ってました。髪形気にしとってまあ色気づいてからこんひとはち、思っとったんですけどね。アルミンとはまた違った頭の良さや判断力があって、リーダー向きのひとだってわかってきました。冷徹になりきれないんがジャンのいいとこです。
 ミカサはいっつもエレンエレンですよねえ。甘やかしとるち思いよったんは一回二回やないち! でも、大事なひとやったら、しょうがないんかな。ミカサ。ミカサは、しあわせなんですか? エレンは悪いひとじゃないですよ。でも、…ミカサにとって「いいひと」ですか? 時々、わからんくなりよる…。
 エレンもね、もっとミカサを大事にせなあ! そんなぶすくれよるんかつまらんでから拗ねとるんやかわからんような顔しとってから! アルミンとだって、ずっと一緒にやってきたんでしょう? ダメですよ。友達は、…仲間って言うのは、大切なんです。特別なんですよ。わかっとっても、ダメな時もあります、でもね、でも、…。
 私は、今ここにいる皆さんにそれを教わりました。その仲間と帰れるなんて、すごく、…すごく贅沢ですねえ。ヒストリアも女王様じゃなかったら、一緒に行けたかもしれないですね。私にパンをくれた女神様ですよ!

 山ですから。なんにもないとこなんですけどね。綺麗なんですよ。

 サシャはくふくふと笑いを含みながら何度も周囲を見渡した。少しずつ馴染みのある風景になってゆく。あの時はみんなで逃げてはいましたけど、巨人が襲ってくることは、今は…とりあえずないし、落ち着いてきてるはずです。馬もまた増えたんじゃないですかね。馬だけじゃなく、子供とか、夫婦とか…そうであって欲しい。

 馬車の車輪と馬の蹄が地面を踏み締める音が、軽快に響いた。

「サシャ。綺麗」
「なななななななななんですかミカサ!!」

 ミカサにふいに言われ、サシャは驚いた。

「こんなに綺麗だったって、気づいてなかった」
「な、ななななな、なんですよう、いきなり! 照れるじゃないですか!」

 少し顔が赤くなっているのが、自分でもわかった。熱くてかなわない。

「ね、アルミン」

 アルミンにまでそんな話題を振るのか、とサシャはその赤くなった顔をアルミンに向ける。

「うん。ほんとにね。すごく綺麗だ」
「な、な、なんですよーう!! あ! あーあーあー! もしかしてアルミン、私が好きなんですね!? …なーんて!」

 気恥ずかしさからつい声を張り上げてしまった。
 しまった! 兵長が怒るかもしれません!! 疾風の勢いでその人物を見やったが、意外にも怒ってはいなかった。睨まれるかとも思ったが、それすらもない。でも不機嫌全開ですね、…ん? 不機嫌ていうのとは、ちょっと違いますね。うーん、塞ぎ込んでる? おなか空いてますか?

(なんですかなんですかなんですかコレ!? コワイです、逆にコワイ!!)

 ハンジはどこということもなく見渡し、リヴァイは腕を組み片足を大きく開いたもう一方に載せて伏し目がちだった。

「アルミン。キザだな、お前」
 からかうような口調でジャンが言った。
「え。そんなんじゃないんだけど、」
「照れてるな、アルミン!」
「コニー。いつだったか『サシャが髪切るのもったいねえな』って言ってたね」
 アルミンは微笑んだ。
「イヤイヤイヤ言ってねえし!」
「言ったよ?」
「へーえ。そんなこと言ってたのかコニー。お前も色気づいてきたかぁ?  オトナになったじゃねえか」
 ジャンが茶々を入れた。
「お前に言われたくねえよ! 気がつきゃ髪と髭の手入れしてんだろーが!」
「身だしなみに気を配るのは大事だろが、あん? 俺にも立場ってもんがあんだよ」

 何ですかね。ちょっと、みんな、いつもと違いますね。いえ、いつもどおりなんですけど、……なんかちょっとだけ。
 サシャは不思議そうにお馴染みの面々を眺める。
 あ。そうですよ。みんなの服装。遊びに行くのにそれはないです。かしこまり過ぎてませんかね!

「もう少し、赤みが薄い方がサシャらしいかもしれない」

 ミカサがぽつりとつぶやいた。

「あまり濃いと、サシャの良さが出ない、と思う」
「ああ、……そう、……そうかもしれない」

 アルミンも静かに同意した。

「えっ。口紅ですか!? えっ。コレ似合いませんかね?」

あれ? 私、口紅つけとった? ああ、久々に帰るんやしちゃんとせなって、…えええ。

「これはこれで、綺麗なんだけど」
「そ、そうですか?」
「でも、もう少し自然な方が、似合う気がする」

 そう言ってくれたミカサこそが、とても美しく見えた。
 元々綺麗でしたけどね! でも、……今のミカサはもっと綺麗です。少し、……少し哀しそうだからかもしれないけど。サシャはしんみりした。哀しそうに見える原因になったとサシャが考える男は、ほんの数年で身長がぐんと伸び、表情から快活さが薄れ、目だけが暗い炎を燃やしており、ミカサやアルミンの心配や意見を容易に受け取ろうとしない。元々そういう傾向はあったが、「かつてのエレンではないのだ」とひしひしと感じるようになった。
 アルミンのことを、誰よりも知ってて、誰よりも評価してたのは、エレンなんじゃないんですか? 私だってちゃんと聞いてるんですよ。兵長に刃向かってまで死にそうだったアルミンを助けようとしたんでしょう? だから、今こうしてアルミンは私たちと一緒に居る。

「気になるなら、直してやりゃいい」

 えっ、兵長!? なななななな何ですか、今日優しくないですか!? いえ、あの、えっと、いつもヤサシイと思ってますケドね、いや、……何だか不思議な日です!

「この辺、あんまり来たことないけど、悪くないねえ。のどかだなあ。…へえ…」

 のんびりとハンジが言った。

「そうですか!? そうなんですよ、何にもないとこなんですけどね、…すごく綺麗なんです! もう少し行くとちょっとした並木があってですね、春に花が咲くとホントに夢みたいに綺麗なんですよ!」

 思わず意気込んでしまった。サシャは慌てて口を閉ざした。あああああ、恥ずかしい! でも、…でも、生まれ育ったとこ褒めてもらえるんは嬉しい!

「コニーの村ともまた、ちょっと雰囲気が違うんだね」

 ハンジはやはりのんびりと言った。感情を込めまいとしているのか、殺しているのか。わからない。そうですね、とコニーが少しだけ表情を曇らせた。遠くに視線を投げかけていた。コニーも、ミカサたちと同じなんですね。帰る故郷が、それに、兄妹とかお父さんお母さん、…お母さんが、……。

 ジャンがぽんとコニーの肩に手を載せた。悪人ヅラだけど、ジャンは優しいです。知ってますよ。ずっと一緒に居ましたからね。ずっと一緒に、……闘ってきたんです。

 サシャがふるふるふる、と頭を振った。違う違う違う! 今日くらいはのほほんとしたっていいはずなんです!

 御者の声がした。そろそろです、と言っているらしい。

「あ! ここから村に入っていきます! 奥になるにつれてちょっと勾配がキツくなるんですけど、…大丈夫ですよね、鍛え方が違いますから!」

 サシャは努めて明るく言った。そして気づいた。みんなが自分を見ている。

「ど、どうかしましたか!?」

 そんなに、私、ヘンなこと、言いましたかね!?

「サシャ。やっと帰ってきたな」

 コニーの声はどこまでも優しかった。

「見ろよ。お前の村だぞ」

 ジャンが続ける。

「いい村だね。シガンシナとは、やっぱり、全然違う。緑が豊かで自然に恵まれてる」
「確かに、私が子供の頃住んでた辺りとは、違う。何だか、空気が違う」

 アルミンとミカサもしみじみと言った。

「サシャ。お前の村、悪くねえな」

 コニー? どうして、……何でそんなに泣きそうな顔をするんです。

「いいとこだ。綺麗だな」

 コニー。どうしたんですか。

「もっと早く来たかったな」

 ねえ。どうしたんですか。

「お前、俺にお前が獲ってきたもの食わしてくれるって、言ってたのにな」

 そうですよ! この私が! 自ら山に入ってですね、

「もっと、……早く来たかったな。こうして、みんなして、…何もかも終わってすっきりしてから、……なあ、見えるか。お前の村だぞ。お前の村だ、」

 馬車は少し速度を落とした。車輪が地面を踏み締める音、馬の蹄の音。風がそよぎ、緑の匂いを運んでくる。

「帰ってきたんだぞ。良かったな」

 ミカサ。アルミン。何で泣くんですか。どうしたんですか。何で、

「肉、いっぱい食えるんじゃねえか。良かったな。もう痛えのも怖えのも、なんにもねえからな。安心しろよ」

 そこに乗り合わせた皆が、サシャを見つめていた。

「みんなで、来たぞ。お前の故郷だ。いいとこだな。……一緒に何もかも終わったら、みんなしてこうして来たかったよ、なあ、サシャ、――」




 ああ。そうでした。私、…………死んだんでした。




 誰もが荷台の真ん中に仰向けに横たえられたサシャを凝視していた。景色が見えるようにと、顔を隠すことはしなかった。
 ふいにミカサが揺れる荷台の上でゆっくりと座席から身体を下ろし、サシャの横に膝をついた。礼装用のコート・ジャケットのポケットから、ハンカチを取り出し、口元を軽く押さえ色を移し取る。

「うん。濃い色よりも、こっちの方が自然な色合いで、サシャらしい。サシャ。とても綺麗。まるで、……眠ってるみたいで、」

 ミカサの目から涙がこぼれてサシャの額や頬に散った。慌ててまたハンカチでそれを押さえて取り去った。目からまたも溢れるそれは乱暴に手の甲で拭った。鼻の頭が少し赤くなっている。

「サシャ。全部終わったら、また来るからな。お前は、……花より腸詰めのが喜びそうだ」

 コニー。ひどいですね。でも、まあまあ正解です。そこは鴨肉とか牛とか豚とか!! …私が獲った鶉の丸焼き、食べさせてあげたかったです。美味しいんですよ、ホントに。鴨ほどは脂のってないですけど、それでもね。おなか空いた時やちょっとくじけそうになった時に、一緒にふざけてくれましたよね。あれ、助かりました。初めて海を見た時、ジャンと三人でふざけて水かけ合いましたね。楽しかったです。……忘れません。

「また来てやるよ。全部終わったらな。それまで、まあ、ゆっくり寝てろ。俺たちが全員揃って来られるように、祈ってやがれ」

 そうします。寝るしか出来ないですしね。こんなんなってもごはんち食えるんやろか。ジャン。みんなを束ねるのは大変だと思います。フロックとも、もっと協力し合えるといいですね。ハンジさんや兵長に相談したり、時々はコニーに愚痴聞いてもらうといいですよ。仲間なんですからね。

「サシャ。綺麗な村だね。みんな帰りを待ってるよ。安心して休んで」

 アルミンは、いつも優しいです。そうさせてもらいます。アルミンも色々苦労が絶えないですけど、きっと乗り越えられるって思ってますからね。ミカサと、…エレンと助け合って下さいね。頭がいいから、みんな頼りにしてるんですよ。ハンジさんだって、意見求めたりするでしょう? すごいことです!

「全部終わったら、またみんなで来る。サシャ。ゆっくり眠って」

 あんまりのんびりおしゃべり出来ませんでしたね、ミカサ。きっと来て下さいね。ヒストリアにもよろしくって、言っといてもらえますか。女の子だけで夜更かしとかしたかったですね! …ミカサは強いけど、女の子なんですから。ムリはダメです。そんな綺麗な顔に、そげん傷こしらえてから。増やさないようにせな! そんで、たまには甘えんと。

 エレン。ミカサが甘えられないのは、あなたのせいだと思いますよ? もっとしゃんとせんかい! 家族やろうがなんやろうが、泣かせるばっかりっちなんや!

 進むにつれて緑の色合いが濃くなった。そして、どこか空気が重く冷たい。

「ああ。先触れのおかげで待っててくれてるみたいだ」

 ハンジが言った。ゴーグルと風に揺れる前髪のせいで表情は見えない。

 居合わせた皆が衣服を簡単に整え始めた。リヴァイが手についた埃に一瞬眉を顰めた。
 ジャンが持ち手のあるトレイを確認し始めた。決して多くは無いが何かがいくつか重ねられており、そのいちばん上に少し使い込まれた深い緑のマントが畳まれていた。双翼の刺繍が天を仰いでいる。

「サシャ。またな。お前と会えて良かったよ。お前は今も俺の、…俺たちの特別な仲間だからな。終わらせたら、…俺たちの手で全部終わらせたら、必ずまた来る」

 荷台の上に片膝をついて、コニーは子供に言い聞かせるように言った。

「お前、そうしてりゃ結構美人なのにな。芋だのパンだのってよ」

 乱暴に目をぬぐって前を見た。その視線の先に何人ものひとが立っていた。知らせを既に聞いているはずだ。何人かは顔を両手で覆っていた。互いに肩を抱き、身を寄せ合っている。そのいちばん前に、初老と思しき男性が立っていた。サシャの父親だろう。

 ミカサは自分の隣の空席を見た。本来なら、そこにサシャが座っていたはずだった。その横顔に気づいた者がその空いている場所に一緒にいたはずのひとりに思いを馳せた。

 いつもそうだ。「もうここには居ない」という存在になってしまう。声を掛け合い、互いに助け合って、寝食と苦楽を共にした。ある日突然「もう逢えない」ひとになり、空いたベッドや埋まらない食堂の席がひっそりと「ここに居た」ことを告げてくる。

 そして、荷台の中央に視線を移した。もう動かず、しゃべることもない。嘘か悪い冗談に思えてならない。うっすらと化粧を施された顔は、すぐにも瞼を開いて何かをしゃべり出しそうだというのに。

 馬車が止まった。数人が駆け寄ってきたものの、距離を置いて固唾を飲んでいた。馬車の後方から、真っ先にミカサが飛び降りた。すぐに簡易の折りたたみ階段を引き出して設置し、足場を確保した。コニー、アルミンとジャン、そしてのそりと立ったエレンがサシャを載せた担架の両脇に立ち、手をかける。そうしている間に馬車の荷台からハンジとリヴァイが各々両脇に飛び降りた。上に立つ者の威厳などと言うものを、かなぐり捨てるように。

 悲鳴と嘆く声が森の木々の間をすり抜けてゆく。

 サシャを荷台から下ろした。ハンジが先頭に立ち、リヴァイがやや斜め後方に控えた。担架を背にするその時、ほんのわずか傍らに立ち止まって、眠る部下の顔を見た。眉間の皺はいつもほど目立たず、翳りを帯びてはいたが、穏やかな顔をしていた。ひとによっては、優しさを感じなくもない表情かもしれない。

「サシャ・ブラウス。お前は良くやった」

 その小さな声が耳に届き、思わずコニーとミカサが目元をコートの袖で拭った。アルミンが担架を持つ担当から下り、ミカサ、エレン、そしてコニーとジャンが担架を持ち、支えた。

「サシャ。重てえな、お前。ウォール・マリアでおぶった時よか、重てえよ」

 鼻をすすりながらコニーがぽそりと言う。命が軽いはずがない。それを厭というほど実感したはずだったが、まだ足りていなかったのだろうか。
 重い。
 重い。これ以上ないほどに、重い。

「じゃあな。マルコに、よろしく言っといてくれ。迎えはまだ先だってな」

 ジャンは表情を見られまいと俯きがちに言うと、何かを振り切るように毅然と顎を上げた。

 アルミンはサシャの私物を載せたトレイを荷台から取り上げ、携えてハンジとリヴァイのさらに後方に控えた。

 憔悴しきって見えたが、男はしっかりと立ち、調査兵団の団長、兵士長と若い兵士たちを迎えた。ハンジは礼儀正しく会釈し、名乗った。胸元から取り出した文書を開き、読み上げる。遺族に届けられる通知だった。集まった村人からすすり泣きとサシャの名を呼ぶ声が上がった。
 ハンジに促され前進したアルミンはやはり一度頭を下げ礼をすると、そっとトレイを差し出した。それを受け取るなりその上に思わず顔を伏せた男は、堪えきれないかのように小刻みに肩を震わせた。年齢以上に弱々しく見え、アルミンは耐えられずその姿から目を逸らした。父親は、かつてどんな気持ちで送り出し、今どんな気持ちで娘を迎え入れているのだろう。

 泣き声だけがさざめいた。サシャの遺体は村人が用意した荷車に、新たに担架ごと載せられた。一同がわっと詰め寄り、口々に名を呼んだ。

 サシャは、ただ黙ってそれを見ていた。遠巻きに、他人事のように。物言わぬ自分の亡骸と、よく知る懐かしいひとたち。

 みんな、待っとってくれとったん? なんか、照れてしまってから、どうしていいとやか、…。

 家族や見知った人々の傍に寄ってみるが、誰も自分を見ようとはしなかった。そして、誰もがその横たわる「自分」を見ている。皆泣いていた。しゃがみこんでいる者も居た。

 ああ、何だか、何だかすごく、かなしいですね、…

「整列」

 ハンジの声だった。リヴァイも含めた残りの六人が横に一列に並んだ。サシャは村人や家族を背に、ゆっくりと振り返った。振り返ってもまた、よく知った顔ばかりだった。

「礼!」

 七人は左腕を背に回し腰に添え、右の拳を捻り、左胸に当てた。




 お別れ、なんですね。




 サシャもまた同じように敬礼した。これが最後だ。

 皆さんと一緒で、良かったです。同じ一〇四期生で、良かったです。つらいのも苦しいのも、怖いのも厭なことも、皆さんと一緒だったから、どうにかやってこれたと思います。
 先に抜けてしまってから、ごめん。すみませんでした。そして、ありがとう。

 本当に、ありがとうございました。
 
 何もかも終わって、みんなが揃ってまた来てくれるのを、待ってます。信じてますから。
 コニー。ジャン。ミカサ。アルミン。エレン。ハンジさん。リヴァイ兵長。ここまで、ありがとうございました。

「サシャ。私たちは、前に進むよ。やめたら、放り出したら、あなたや今までの仲間の死が、無駄になってしまう」

 ハンジの声が響いた。その隻眼の視線はサシャの遺体が去って行った方向を追い、続いて、……エレンの横顔に向けられた。エレンは目を見開いてただ前を見ている。サシャの亡骸とそれを取り巻く人々が分け入ってゆく森の緑だけを睨んでいた。全てを燃やし尽くしそうな強く鈍い光を宿して。ミカサが悲しそうにそれを見守り、アルミンは俯いていた。ジャンとコニーはただ黙っていた。

 両手を下ろした七人は丁寧に頭を下げた。サシャの父もまた一礼した。村人たちが荷車と共にどんどん遠ざかり、小さくなってゆく。礼装の七人はゆっくりと体勢を戻し、悲しげな一団の背中を見つめた。その姿をサシャが見つめる。

 ひとり、またひとりと元通りに荷馬車に乗り込んだ。

 お別れです。みんな、気をつけて。一日も早く来てくれるのを、……平和になるのを、祈ってます。

 馬車に乗り込んだ「仲間」は森を見つめ、座席の空きを眺めた。取り戻すことの出来ぬものばかり、視界に入る。もう居ない誰か、見ることのかなわぬ姿。

「出してくれ」

 ハンジの声で御者は馬に軽く鞭を当てた。また軽快な音を立てて、来た道を戻り始める。

 ミカサとコニーがこちらを見ているのが見えなくなるまで、サシャはそこに立っていた。

 お別れです。

 ゆっくりと森に向かい踵を返した。

 何て言われますかね。途中で終わってからち、呆れられるやろか。それとも、よくやったち、言ってくれるやろか。私、結構頑張ったんやけど。足りんやったかなあ。

 とぼとぼと歩く父の背中が小さく見えた。子供が先に逝くなんて、親不孝よね。許してくれる?

 風が木々の葉を揺らした。

 ああ。ほんとに、帰ってきたんですね、…!

 サシャは胸いっぱいに空気を吸い込んだ。少なくとも、本人はそのつもりだった。
 ここを出た頃より短くなった髪を揺らす。あの頃と、自分は何か変わっただろうか。かつて一度ここに戻った時に、父は、――

 帰ってきました。
 長かったんかな。あっという間やったかも。どうやろ、…。

 サシャは歩き出した。道の全てを懐かしみ、なぞるように。周囲の美しさを瞳で愛でながら。
 目の前には見たこともないあたたかな光が広がっていた。美しく、こころが和む。何だか晴れやかな気分だった。

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Posted by璃果

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2018/07/13 (Fri) 02:55 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/12 (Sat) 23:02 | EDIT | REPLY |   

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