お付き合い、始めました。6

見据えるミカサ。見つめ返すリヴァイ。部屋の入口で突っ立ったままの二人は互いに目が据わっている。
ミカサの手にはトレイ。そのトレイの上には皿と小瓶とグラス。皿の上には具沢山のサンドと小振りのボウルが載っている。
「おい。何だそりゃあ」
「つくったら食べて下さると」
「気持ちだけでいいって言ったよな」
「結局今日もまともに食べてない。食べるべき」
多分、ミカサは引かないだろう。そしてリヴァイには拒み続けなくてはならないほどの理由はなかった。
「とにかく入れ」
ミカサは促されるまま部屋に入った。しかし二人は立ち尽くしたままだった。間に妙な緊張感が流れている。
「お前、まさか買い出しに行ったのか」
リヴァイは皿の上を凝視する。
「そんな暇はない。その、…ありあわせのものでつくった」
「ありあわせで林檎酒があんのか。ふだん食堂で出さねえもんてんこ盛りじゃねえか。肉って、おめぇ……」
贅沢の極みのような内容にリヴァイは絶句した。
「あれこれ好き嫌いするから背が伸びない」
「テメェ…」
不機嫌な仏頂面がより更に凶悪になる。
「食べてみてまずかったら食べなくていい」
思いつめたような表情をしているミカサだったが、どことなくしょげているように見える。リヴァイは忌々しげに舌打ちした。そんなツラすんじゃねえよクソが。
「わかったから、とにかくそこ座れ」
ミカサはトレイをテーブルの上に置くと、リヴァイの視線の先にある長椅子に腰掛けた。ミカサの隣にリヴァイも座った。
「給湯室で作ろうとしたら、幹部の皆さんにあれこれ頂いてしまった」
リヴァイは面子を想像してため息をついた。今後あいつらに会うたびこれネタにされんだな。諦めの境地に達するのは速かった。
「お前も食え」
「でも」
「お前も食わねぇなら、食わねえ」
手が伸びてミカサの頬をふわりと包んだ。長い指が黒髪をわずかに絡めとる。
「このパンだの何だの、お前のだろ。ふざけたマネしてんじゃねえよ。俺に食わせる前にお前が食え馬鹿野郎」
ことばとは裏腹の手のあたたかさにミカサはうつむく。
「切り分けます。ナイフ、貸して下さい」
置き場所を訊いたミカサがナイフを手にすると、持参したサンドをカットした。少し乾いてきているのが気になるが、致し方ない。
「どうぞ」
ミカサが皿を差し出すが、リヴァイの手は動かない。
「?」
「食え食え言うんだから、口まで運ぶのがスジだろ」
ふんぞり返って言うな! ミカサは苛立った。食べるのが面倒なのかひとに面倒をかけたいだけなのか。ナイフは削いだり切ったり刺したりするのに使う道具……。心の中で炎が湧き上がる。
ミカサが切り分けたサンドをリヴァイの口元に運んだ。リヴァイが少し頭を突き出して、それを口で受け止める。ミカサは思わず息を呑んで様子をうかがった。しばらくもぐもぐと咀嚼している。乾いた分、食べにくいかもしれない。あるいは味が気に入らないかもしれない。もっといい具材があれば――
「…………なんだこれ。うめえ」
その瞬間、ぱあっとミカサの顔が輝いた。何可愛いツラしてんだコイツ腹立つ。
パンにはもらったチーズと塩漬けの肉、薄くスライスした林檎を挟んだ。バターと林檎をハンジからもらえたのもラッキーだった。塩はなかなか手に入らないのでどうしたものかと思っていたが、運良く塩漬け肉が手に入った。酸味と甘みは林檎で加えて、チーズでコクと旨みとを更に追加した。
「これも」
スプーンには細かく刻んだ野菜の入った何かが載っている。
「蒸かした芋を潰して、それに酢漬けを刻んで混ぜて味をつけました」
リヴァイはそれも口に含んだ。
「……悪くねえ」
ぱあっ。ミカサの顔が更に輝く。腹立つからヤメロ、クソが。リヴァイは林檎酒の小瓶を開け、グラスに注いで一口飲んだ。提供したのは、ミケかエルヴィンのいずれかだろうか。
「ほら。お前も食え」
一切れつまんでミカサの唇に押し付ける。ミカサは最初躊躇ったものの、小さな口を開いてそれを食べた。
「良かった。思ってたより美味しい」
「テメェ、味見してねえのか」
ミカサが微かに黒い笑みを浮かべた。この根暗野郎が…。
「結果はまずくなかったんだから問題ない。もっと食べる」
小さな手がサンドをつまんで、再度リヴァイの口元に運んだ。横目で一瞬にらみはしたが、それを口に含んだ……だけでは終わらなかった。ミカサの指先まで口に含んだのだ。濡れた感触が指をかすめる。
「何を…!」
慌てて引き抜く。ミカサは耳まで赤くなった。食べるだけで……なんでそんなにいやらしい雰囲気をはらむのか理解出来ない。
「ああ、まずくねえな」
その後も小さな攻防を繰り広げながらの食事が続いた。


「美味かった。お前、料理うめえな」
「今日は料理というほどのことはしてない。組み合わて重ねただけ」
直球で褒められてミカサはそっぽを向いた。顔を合わせにくい。何故照れなくてはならないのか。自分がイヤになる。
「嫁にしたら毎日食えるわけだ」
驚きのあまりリヴァイの方を向いてしまった。
「……なんだよ」
意地の悪い目と視線がぶつかってしまった。悔しい。
「別に!」
改めてそっぽを向いた瞬間、自分が影に覆われていることに気づいた。
「美味いもん食わしてもらったんだから、たっぷり礼をしねえとな」
いつの間にか距離が縮められ、自分の肩に腕が回されている。硬い胸板が押し当てられてミカサの心臓が跳ね上がった。
「ひ、必要ない!」
こめかみの辺りから林檎酒の香りが漂う。
「そう遠慮すんな。夜はまだこれからだろ」
ミカサは逃げ場を失った。否、元より無い。

:メイン・ディッシュはミカサなんですねわかります。
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