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黒豹は夜を切り取らない。

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雨に似ている ―アクマでも、キミがキライ。Extra 3

Category - Devil I Know
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まよわないでだきしめて なだらかなかたよせて
はなれててもキスをして なまぬるいミルクティー


甘えたちゃんで気分屋さんでワガママ言うごすみっかが見たい。ので、書いた。
でも思ったよりワガママにならなかった。ちょっといつもよりご希望が多い程度。
そもそもこのコはワガママになれないのであろうか。
「子供であることを奪われた子供ほど 哀しいものはありません」
(吉田秋生「海街diary」)

刺さるな、この台詞…。

女性特有の現象を扱うネタなので、ニガテな方はスルーでお願い致します。ええ、その、月のナントカ。

みっかがものすごくぴーぴー泣きます。
情緒不安定なのもあって泣きまくり。
自分のキモチのアップダウンについていけなくてひとりはわはわ。
しかし清掃員さん動じない。さすが三十路過ぎ。
さすが「常時発情中の変態ファントム掃除夫」。
  ↑
読んで下さってる方の素晴らしい命名。素敵過ぎるだろ。
ウチのりばいちゃんを的確にあらわしている!!

ホントに、今まで泣かずに来た分しわ寄せwがヒドイのかもしれません。
「甘えろ」という清掃員さんがみっかに甘えられたらどうするのか。
ふだんなかなか見せないワガママを見せたら。

ウチのリヴァイさんは(意地悪だけど)くそかわみっかにはアホほど甘いなあと思います。
いじわるなりばいちゃんはいません!
みっかの可愛さにヤラレて何度も殺されています。アカン…。
それでもじんるいさいきょうのおとこから派生したキャラか!!
はぐはぐちゅっちゅが止まらない不治の病に侵されている模様。
よう、頑張れよ三十路過ぎ。

すごく紳士的かつ理性的に振る舞ってるこのひとの中にどす黒い闇とヤる気が眠ってるのかと思うと、…

わくわくします。(会心の笑み)

20180206→

余談。これ書いてたらって訳でもないと思うのですが、私まで情緒不安定になってますた。
ごすみっかがぐだったからって私までぐだることはなかろうよ…。
寒波といいコレといい、その気もないのに先取るとロクなことがねえな(哀)。
チェックの為に読み返して「情緒不安定」云々のくだりにくると「お前やんけ」とセルフツッコミしてしまう。

It looks like rain で「雨が降りそうだ」なんだけど、これ実際に「雨に似てる」って英語で言いたい時って何て言うんだろ? 代名詞が it から「彼」なり「彼女」になれば通じるの??
もっとも、ヒトを表現する時に使うって、かなり詩的な表現になっちゃうのかな。
「キミは雨に似てるね」とか言うひとって、…オウフ…。

作中、一度も雨は降っておりません。

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「リヴァイ。わ、私、帰る。タクシー、電話番号わからなくて。もし知ってるなら、呼んで欲しい」

バスルームから戻るなり、ミカサはバッグを引っ掴んでまだリビング・ダイニングを出て行った。そして、再度戻るなり青ざめた顔で言い放った。
リヴァイは少しばかり目を見開いてミカサを見つめた。

「どうした」
「あの、なんでもない、ちょっとその、」

それのどこが「なんでもない」とのたまう人物かと、誰が見てもそう思うような態度だった。どうにも要領を得ない。困ったような顔でいきなり帰りたいと言われて「なんでもない」もへったくれもないではないか。

「落ち着け。何がなんだかわからねえ。ちゃんと説明しろ。なんか持ってくるの忘れて戻りてえとか、そういうことか。車くらい出せる。タクシーは必要ねえだろ」
「ううん、いいの、手間をかけさせたくないし、」

ミカサは目を合わせようとしない。

「手間だ? そんなもんねえよ。何か急ぎなのか」
「ううん、そうじゃない、とにかく、今日は帰る」
「お前な。ちゃんと言わねえとわかんねえだろ。どうした、って訊いてんだろうが」

ことばはややキツめに響くが、口調は穏やかなものだった。リヴァイは淡々と話しかける。

「今回は、なんか、ダメ。それに、…………出来ないし、だから、」

ミカサの手はバッグの持ち手をぎりぎりと握り締めている。

「ミカサ」

やわらかく響く声に、ミカサは眉を下げてへにょりと表情を崩した。

「どうした。俺には言えねえか」
「あの、……急に来ちゃって、それで、……あんまり急だからか、なんだかジョウチョフアンテイな気がする」

言う通りだ。否定は出来ない。リヴァイはミカサの手を自分のそれで包み込んだ。ぴくん、とミカサが反応した。

兎の耳だな。
薄く、血管が透けて、仄かに赤みが差すあの白い兎の耳。ひよひよと頼りなげに動き、小さな物音にも敏感に反応する。

「……あれか、月のもんか」

自分よりはずっと大人で、そういうことを知らないはずもない。それでも、「男」の口からそれについて言及されたりするのは、どうにも気恥ずかしいし気まずいと思ってしまう。やや遠慮気味に言われたのが、悟ったが故の気遣いだとわかって、それはそれでいたたまれない。

そんなの、リヴァイだって、どうしろって言うんだ、って思うに決まってる。ぞんざいに口にされてもイヤだし、気遣われても困るなんて言われたって。わかってるの。
ひとつ気になるのは、……がっかりしたような表情を浮かべたように見えたこと。やっぱり、……セックス出来ない私には、あんまり意味がないのかもしれない。
何をしてあげられる訳でもないから。私のからだで気持ちよくなってもらえるのは嬉しいけど、それしかないっていう事実は、つらい。

バスルームに行って戻るなり血相を変えてバッグを掴んで再度同じ場所に消えたのだから、悟られても仕方がない。いつもはもっとうまく対処出来ていた。あまりに急で戸惑ってしまっただけだ。きっちり正確無比な周期ではない。多少は前後する。だが、母親やその手の本から得た知識でいっても、それは別に特別異常なことではない。間隔のズレが大きすぎて、何だか焦ってしまった。みっともないところを見せたものだ。ミカサは悔しさと羞恥心で眩暈がした。

時々、こんな時は落ち込んだり下らないことでへこんだりしてしまう。ネガティヴに物事を見て考えてとらえてそれに雁字搦めになって、自分でも困惑するのだ。それでいて急になんでもないような気分になる。そこからまたどんよりした気分に引き戻されてしまうこともあった。それを繰り返すのだ。
それが、今、そうなってしまった、気がする。

それなりに経験してきて、今更ではある。それなのに、慌ててしまった自分が居た。情けない。小学生でもあるまいに。ミカサは自分に腹を立てた。

「必要なものがねえとか、そういうことか」
「う、ううん、一応、ちゃんとそういうのには備えてあるから、大丈夫。ただ、時々、気が滅入ったりイライラしたりしてしまう。今も、そうなのかもしれない。一緒に居たってイヤな思いさせちゃうし、だからもう今日はこれで」

頭を抱え込むようにして引き寄せられて、ミカサの身体が強張った。

「リヴァイ、ダメ、」
「あのな。こんな時まで俺がお前に」
「そうじゃなくて、なんか、……きたない気がして、…触ったりしたらリヴァイまで」

声が震えている。より引き寄せられて、空いていた腕が自分を包むのを感じて、ミカサはそれまで以上に身体を硬くした。

「オイオイオイ。お前、何世紀に生きてんだ。イマドキ言うか? お前がそういう信仰持ってんなら尊重するが、聞いたことねえぞ。ケガレてるから隔離しろってか。馬鹿なこと言うな」

今時な上に今更だった。これまでにも当然そういうことはあって、キスより先に進もうとした時にミカサが恥ずかしそうに告白したことがあった。
肌を重ねる頻度の多い少ないなどミカサには判断しかねるが、求められれば嬉しいし、身を委せることがほとんどだった。そんな気分ではなかった時でも、キスをされて抱き締められている内に、受け容れたくなったり触れて欲しくなったりしたこともあった。
逢えば常に肌を重ねる訳ではないし、ただ抱き合って過ごすことも多かったため、それほど何度もそういう機会があった訳ではないが、ないわけでもないのだ。

情緒不安定だな、確かに。リヴァイはミカサの表情や仕草を注視した。

「別に泣きたくもないのに泣きそうだし、馬鹿なこと言っちゃいそうだし、リヴァイにイヤな思いさせたくないの。だから、帰る」
「涙出るなら泣いてすっきりすりゃいいし、馬鹿みてえなこと言いてえならそれでも構わねえ。俺がどうこうてのは、どうでもいい。お前がどうしたいかだ。家でひとりでゆっくりしてえなら、もちろんそうした方がいい」
「ここに居たい。でも、……イヤなコだって思われる。絶対私のこと、キライになる。ヤダ」

涙ぐんでこぼすことばは、まるで小さな子供だ。

ぎちぎちと握り締めるミカサの手をそっとほどいてバッグを取り上げると遠ざけるようにテーブルの上に置いた。その手を自分の背に回させると、改めて抱きしめる。ミカサの身体はまだ強張っており、何もかもがぎこちない。リヴァイはマネキン人形のポーズを変える自分を思い浮かべた。腕の中の細い身体からぎしぎしと軋む音が聞こえないのが不思議なくらいだった。

「ならねえよ。そんなクソみてえな理由があるか」
「あるもん。私なら、ヤダ」

うつむいたまま、ぽそぽそとこぼした。結い上げたさほど長くもない黒髪が頭の両サイドでゆらゆらと揺れる。

「そりゃお前の想像であって、俺の感想じゃねえだろ」

ぴくん。兎の耳が風と気配に神経を尖らせるように。

「イライラされて八つ当たりされて嬉しい? もしかしたらそんなことするかもしれない。いきなり泣き出したら? 理由ないのに! こうやってべらべら喋り出して、会話にすらならなくて、そんなの一緒に居たって楽しくないし、」

ミカサはしゃべれなくなった。顔を持ち上げられ唇をそっと塞がれて、啄まれた。労るようにあわあわとやわらかく触れられて、泣きたくなった。

「問題ねえ。なあ。これから先、一緒に暮らせるようになって、お前、そうなってもいきなり家飛び出して居なくなるつもりか」
「! そ、れは、」
「そのたびに俺は何してやれるかもわからねえまま、お前の背中見送りゃいいか。根本的な解決にならねえだろ。お前がどうして欲しいかわからねえまま、指くわえてりゃいいのか。放っておいて欲しいなら、そうする。一緒に居てえならそれでいい。でもな、何もわからねえ状態で、俺が勝手にあれこれやらかして、お前が気に病んだり気が休まらねえんじゃ、話にならねえよ。話したくねえ気分なら、それはそれでいい。構われんのがイヤなら、それでいい。話せる範囲、伝えられる範囲で、お前がどうしたいかってのを、ちゃんと教えろ。出てくのは簡単だがな、……これから長くずっと一緒にやってこうってのに、伝えることもしねえで断ち切って終わり、てのは、……納得も承諾も出来ねえ」

耳元で、落ち着いた声が淡々とことばを紡いでいる。小糠雨が窓をたたき続ける音に耳を傾けるのに、似ている気がした。雨の音は、必ずしも厭ではない。心地よい時もある。

似てる。あのちょっと気だるい気持ちのいい微かな音楽に。やさしいやわらかい音が包み込むみたいに響いて、何となく眠くなる。

「これから長くずっと一緒に」。

そのことばは、ミカサの胸に甘やかに染み込んだ。

子供じみた態度を取った自分と、それでもこの先も一緒に居るのだと宣言してくれたのだ。自分が気遣いだと思った態度が、傷つけるものだとやっと気づいた。

「リヴァイ、ごめんなさい、」
「お前、割と簡単にソレ言うな。この国の人間とは思えねえ。謝ったら負けだと思ってる人間ばっかりだってのに」

からかうような口調が耳朶をくすぐる。

こんなにやさしいひとに、私、酷い態度を取った。それを責めるんじゃなくて、受け容れた上で、そうじゃないカタチがいいって自分の気持ちを教えてくれた。

「リヴァイ、……わたし、」

それなのに、泣いて誤魔化すみたいなことしか出来ないなんて。

「いい。謝って欲しいんじゃねえんだ。俺に何が出来るか、お前がどうして欲しいか教えてもらいてえだけだ」
「リヴァイ、…リヴァ、」
「いい。今は、無理してしゃべるな。お前すぐ我慢するし無理するよな。俺がそうさせてんのかもしれねえ。悪かった」
「ちが、ちが…の、リヴァイ、わるくない、」
「いい。しゃべらなくていい。いい子だな。大丈夫だ。好きなだけ泣いていい。大丈夫だ。お前の速さで歩いていいし、好きなことしていい。泣きてえならそれでいいんだ」

あめがふってる。霧みたいにこまかくてやわらかいの。ぬれるのもきもちがいいくらい。立ち込めるような細やかな水に全身を包まれるあの心地よさ。

髪を撫でられ頭を撫でられ、そっと包むように封じ込められている。時折花弁でも触れるように唇が押し当てられた。

慈雨に包まれて泣く、という体験を、部屋の中ですることになるとは思ってもみなかったことだ。十六年近く生きてきて、これから先も様々な経験をするのだろうとは思う。けれど、こんなにもしあわせで泣きたくなるようなことがあとどれほど起きるというのだろう。

数え切れないくらい? リヴァイは簡単に私に奇跡を起こすから。
誰ともうまく繋がれなかった私の手を、あっさり握ってつかまえていてくれる。

だだっ広い海の上にぽつんと浮かぶだけの小さな舟が、誰にも気づかれずに沖に流されていく。それが自分だと思っていた。沖からぼんやりと陸地を眺め、陸地もまたどうでもいいかのようにぼんやりと自分を見ている。今は、杭にしっかりと繋がれた舫があって、ゆらゆらとたゆたっていた。不安も恐怖もない。まるで揺り籠だ。

ミカサが声を上げて泣き出したのを聞いて、リヴァイはその細い首筋に顔を埋めた。



「あの、いつもこんな風になる訳ではなくて、」
「ん」

ソファに深く腰掛けるリヴァイの脚の間に、横抱きにされるように抱きかかえられながら、ミカサはぽつぽつと話し始めた。赤くなった目元と鼻が顔立ちを幼く見せる。泣いたせいか、今の自分の身体の状態のせいか、恥ずかしげにあらぬ場所を見つめて、リヴァイとはなかなか目を合わせようとしなかった。

「時々、ちょっと自分でもどうしていいかわからない。意味もなくイライラしたり、落ち込んだり」
「そうか。そう珍しいことでもねえだろ。ホルモンのバランスだかなんだかで、そうなるのはままあるんじゃねえか」
「そういう風に習ったけど、自分が実際そんな風になるって思ってなかったし、なっちゃったらなっちゃったで、すごくイヤなカンジ。自分のことをコントロール出来ないみたいで」

小学生の高学年にもなれば、身体の成長・成熟に関して学校で教わることになる。親が許可・承諾しなければ受けなくてもいいことになっているが、大抵はいい機会だからと学ぶ場に参加する子供がほとんどだろう。もちろん、家庭で母親からもそういうことを教わるし、自分の身体や知識や認識に疑問が湧けば自分からも尋ねるようになる。
男のリヴァイにはその全容は判りかねるのだが、自らが子供の時代にも、既にそういう配慮や措置が取られていたためにうっすらとは知っているし、今となっては年齢的にも多少は理解や知識がある。むしろこの歳になっても理解も知識もなく身体の関係を結ぶ方がどうかしているだろう。
ミカサに逢うまでは、深い関係など望んでいなかったが故に配慮するのが当然だった。厄介ごとは御免被りたい。未来だの将来だの、そんなものを求められても応えられない。

ミカサには、それをこそ求めたのだが。

「でも、それがお前に責任がねえのは、わかってるだろ」
「そうだけど。でも、それでリヴァイにイヤな思いをさせていいことにはならないから、」
「なるかどうか、わからねえじゃねえか」
「うん、……」

ミカサの小さな右手をリヴァイの左手が包んでいた。空いた手はミカサのウエストの辺りに支えるように巻きついている。

「前に、…もうずっと前のことだけど、ひとりで家で過ごしてた時、酷かったの。バッグからノートを出そうとしたら落とすし、そんなの別になんてことないはずなのにものすごくイライラして叫びたくなった。そういう自分がすごくイヤ、って思った瞬間、びっくりするくらい涙が出てきて、それなのに冷めたアタマで『ヒドイ。何コレ。私、大丈夫?』って思ってた。その後も課題に手がつかないし、料理したい気分にもならないし、おなか痛くなって腰が痛くなって、もう何もかもイヤで泣きながらふて寝した。目が醒めていきなりアイスが食べたくなって、食べるんだけど、食べながら泣いてるの。美味しいって思う反面、味なんてわからないって思いながら」

時々声が震えるミカサの頬に、軽いキスが与えられた。涙がこぼれるとそのキスをくれる唇がさらってゆく。ますます泣きたくなるけれど、苛立つことはなかった。こころがささくれているとは感じない。

「ぶつける場所がなくて、辛えだろ、それは」

自分でも最低って思うのに、リヴァイは否定しないで受け容れてくれるの? ミカサは戸惑いと安堵をおぼえた。リヴァイにもたれてみた。当たり前のように抱きしめられて、また泣きたくなる。

「リヴァイ、」

薄手のブランケットをかけ直しながら、リヴァイがミカサを見た。

「ん?」
「重いでしょ。私の脚、ずっとリヴァイの上にのっかってる」
「お前なんぞ羽根みてえなもんだ。大して重くもねえよ」

待ってろと言って寝室から戻ってきたリヴァイの手には白い毛布があった。壊れ物のように包んで抱きかかえてくれた。「冷やすのは良くねえからな」と言って。部屋は十分にあたたかいと言うのに。

「でも、今日は体勢キツいか。フツウに座る方がラクだろ」

言いながら、ミカサを支えつつそっと身体を起こして、離れようとした。

「行かないで、」
「どこにも行かねえよ。心配すんな」
「抱っこがいい」

一瞬リヴァイが固まった。

「そうか」

ふだんなかなか甘えたことを言わないミカサが。思いながらまた体勢を整えて抱きしめ直した。包み込んでいたブランケットから二本の腕がするすると伸びてリヴァイの首筋に巻きつく。

「お前、そういうカワイイこと、ふだんからしろよ」

上半身からすべり落ちたブランケットはそのままにしたが、ウエストから下を覆うように手で整える。思わず身体が揺れたのは、ミカサの唇がリヴァイの耳の縁を甘噛みしたからだ。

「だいすき。……すき。……リヴァイ、だいすき」

オイ。抱けねえ時に限って甘えんの、どうにかしやがれこのクソガキ。
以前よりは甘えるようになったものの、どちらかと言えばまだ遠慮がちで、「続きは寝室で」というような状況に流れていきそうな甘え方を自分から、というのはどうやらまだまだ「勇気」の要る行動らしい。
それが。

「元気ある時に言えよ……」
「すき。……すき」

ふ、と身体を起こしたミカサの項に手をかけて、唇を塞いだ。

「おぼえとけよテメェ」
「うん。すき」

この野郎。

狡猾さのカケラもない顔で縋るように言われては、何も言えない。リヴァイは据わる目でミカサを睨んだ。相変わらず無意識でひとを追い込みやがる。

「……なんか、欲しいもの、あるか」
「リヴァイ」

お前、本気でぶっ飛ばしてえな…。

「もうお前のもんだ。違う意味で言ってんなら体調万全になってからたっぷりくれてやる。そうじゃなくてな、食いてえとか飲みてえとか、なんかねえかって訊いてる」

ミカサはリヴァイの頭に顔を押し付けて小さく鼻をすすっていた。それこそ、自分でも訳のわからない涙がまたこぼれてきたのだろう。

「んん、いいにおい。……アイス」
ぐす、とまた鼻をすすりながら、それでも主張した。
「ヴァニラでいいか」
「苺のがいい」
具体的な希望まで添えた。いいことだ。
「そうか。ちょっと待ってろ。買ってきてやる」
「ない?」

あると思ってんのか。ヴァニラあんのが奇跡だろ。前に買い込んだのがまだ残ってんだ。リヴァイは声に出さずにつぶやく。

「すぐだ。イイコで待ってろ」

今度こそは本当にミカサから離れるべく身体を動かした。ミカサの手がリヴァイのセーターの裾を掴んだ。

「ダメ。行っちゃやだ! 一緒に居て」

オイ。オイオイオイ。何可愛いツラしてやがんだ。腹立つな。手ェ出せねえの知っててソレか。

「一瞬とはいかねえがいつも寄るあの店あるだろ。そこ行きゃすぐだ」
「やだ。ダメ。ヤダ」

「あの店」とは、リヴァイのアパート近くにある、住宅地の通りの角にあるグロサリィだ。ちょっとしたものなら大抵揃う。二人で大きめのスーパーなどに買い出しに出ることもあるが、あれこれ買う訳でもない場合はそこで済ませてしまう。

「なら、……ああ、苺のソース、買ったのあったな。それヴァニラにかけるので手ェ打つか?」
「うん! それでいい!」

今度は目を輝かせている。ついほんの少し前まで泣きそうな顔をしていたのに。

「お前、まさか冷蔵庫行くのもダメとか言わねえよな」
「背中にくっついててもいい?」
「生まれ変わったらコアラにでもなれ、アホウ」

ミカサはぷう、とふくれた。

勘弁してくれ。ヤれねえのに何してくれてんだコイツ。足元見やがって。
リヴァイは昏倒しそうな気分を無理矢理に振り払って立ち上がった。ミカサの頭にキスするのは忘れずに。ちらりと横目で見ると、またご機嫌そうな表情を浮かべていた。

冷蔵庫にたどり着くとフリーザーのドアを開き、ヴァニラ・アイスクリームの入った大きな容器を取り出した。シンクに置くと吊り戸棚の扉に手をかける。樹脂製のボトルを取り出すと、口の部分を覆う硬めのフィルムを剥ぎ取った。
以前一緒に買物に出た際に、買ってきたストロベリィ・ソースだ。ヴィーガンでも問題なく食べられるものを多く出しているブランドでオーガニックを謳っており、試してみたいとミカサが言ったものだった。
吊り戸棚の違う扉を開くと、今度は小振りのボウルを取り出した。抽斗を開き、スプーンを取り出す。ひとつは小さく、ひとつは大きいものを。
ミントの葉があれば添えてやれたのだが、残念ながらそこまでしゃれたものはない。象牙のようなあたたかみのある白に、鮮やかな赤いソースをかけた。

黒い髪に白い肌に赤い唇てのは、…スノウ・ホワイトか。俺の白雪姫サマはアイスクリームでご機嫌の斜めが真っ直ぐになんのか。

リヴァイのオヒメサマはソファの上で毛布にくるまって仔猫のようにリヴァイの様子をうかがっている。ボウルを手に振り返ると、待ってましたと言わんばかりに両腕を突き出してきた。

タチの悪い女に惚れたもんだ。どうしてくれんだ。ヤレねえのに煽ってくる、やたらクソ可愛いツラ見せる、何なんだよ。殺しにきてやがる。

「ちゃんと毛布にくるまってろ。冷てえもん食うんだから身体冷える」
「ん!」

両手でブランケットを寄せて自分の胸から下に巻きつけ直した。キッチンでてきぱきと動くミカサはどこに行ったのか、もたもたもそもそと覚束ない仕草で、毛布と戯れているようにすら見える。

死んだな、コレ。今日なんでそんないちいちカワイイ真似してんだ。リヴァイは眉間に皺を深く刻んだ。あと何回俺は殺されんだ、ああ?

リヴァイは不愉快そうな顔でどっかりとミカサの隣に座った。ミカサが動きにくそうにうにうにと自分にまとわりつかせた毛布を持ち上げるようにして身体の向きを変える。

お前な。スライムかヨーダみてえなナリしてんのになんでそんな、……。

「リヴァイ?」
「口開け」
「自分で食べられるから、」
「違うもんぶち込みてえの我慢してやってんだから、大人しく開けろ」
「?」

ややとろけ始めたアイスクリームを一掬いしてミカサの口元に運ぶと、小さな口にする、とすべり込ませた。

「美味しい…」

じっくりと味わってからぽそりとつぶやいた。

「泣くほど美味えか」
「…うん、」

涙が時折頬を伝ったが、ミカサは笑っていた。

「苺の酸味がくっきりしてて、すごく美味しい。甘過ぎないの」

腿の上に器を置いて、左手でミカサの涙を拭う。アイスクリームのせいでその手指がひんやりと心地いい。

「だいすき」
「アイスか。ソースの方か」
「リヴァイも。全部」
「おう」

ミカサの額に自分の額を推しつけた。ミカサはくすぐったそうに笑った。鼻の頭がぶつかり合う。唇と唇も僅かに触れ合った。ヴァニラと苺の香りがする。

「寒くなったら無理して全部食わなくてもいいからな」
「全部食べる! すごく美味しい。リヴァイにも食べさせてあげる」

器とスプーンに手を伸ばしたが、遠ざけられてしまった。その代わりに、顔が改めて近づいてきた。ミカサは瞼を閉じた。

「嘘つきやがって。甘ったるいじゃねえか」

そう言ってまた一口含ませる。

「キライな味?」

コレ、何回目だ。この先数え切れねえくらい死ぬハメになんのか。どうせ死ぬならお前のナカで逝かせろよクソッタレ。

ミカサは嬉しそうに苺ソースとヴァニラのアイスクリームを味わった。時折頬や目尻を手の甲で拭いながら。



「どうする。なんか映画観るとか本読むとかしてえか。それとも何もしねえでぼんやり過ごす方がいいか」
「リヴァイが一緒に居てくれたらそれでいい。無理におしゃべりしてくれなくても、大丈夫。隣に居てほしい。……でも、そんなのでも、リヴァイ、平気?」
「構わねえよ。お前がゆったり過ごせりゃいい」
「こんなに甘やかされてたら、もう戻れない。何にもしない、出来ない、ダメな人間の出来上がり。料理は冷凍庫から出したのをレンジに任せて、課題は適当にやってメールで送信、そ、……」

ミカサが眉を顰めた、ような気がした。

「どっか痛えのか」
「ちょっと、おなか、痛い」
「横になるか」
「うん、……一緒に、居てくれる?」
「もちろんだ」

立ち上がって、ミカサの手を取った。ミカサがほんの少し腰を浮かせただけで、細く見える割に逞しい腕がするすると絡みつき、気がつくとソファの前で立っていた。下腹や脚に力を入れなくて済むように抱えて引き上げてくれたのだろう。

「あ、いいの、」

さも当然のように、ミカサを抱き上げようとした。

「連れてってやる」
「大丈夫。歩ける」
「腹痛えんだろ」
「歩けないほどではない、ので、大丈夫。リヴァイ。こんなことだと、私はその内本当に歩き方も忘れてしまう」
「問題ねえ。俺が脚になりゃいい」

問題ないことなど、ある訳がない。こともなげに言えるのは何故なのだろう。

「そんなコの方が、良かった?」
「あ?」
「頼って甘える可愛げのあるコの方が、すき?」
「頼って甘えるのがうまく出来ねえのが、お前のカワイイとこだろ」
「誤魔化した」

思わず顔を背けてしまった。
違う。別にリヴァイを責めたいんじゃないの。なんでこんな言い方しちゃったんだろう。

「……お前、俺の何が気に入って俺のもんになった」
「え」
「妙な噂はある、お前より十五以上歳は上だし、学校で清掃員なんてやってる冴えねえ男だぞ。世の中もっとキラッキラした野郎が居るだろうが。別に外見イケてるって訳でもねえしな。ご覧のとおり、何が楽しくて生きてんのかわかんねえツラしたおっさんだ。よりによってガキに手ェつけたとあっちゃダメ押しもいいとこだろ。そもそもお前なら、よりどりみどりじゃねえか」
「ダメ! そんな言い方しないで! わたしにはいちばん大事なんだから! リヴァイは意地悪だけどやさしいし、生意気なこと言ってもいきなり叱ったりしないでまずは受け容れてくれる心の広さがある! 私なんかを大事にしてくれるし、気遣ってくれる。リヴァイみたいに寛大で繊細な心配りが出来るひと、見たことない! 大人だけど可愛いし! だいたい、顔立ちだってお母様に似てすごくキレイ。それなのに」

口が塞がれて何も言えない。頭を上から押すように、ぐい、と肩に押し付けられている。

「本人前にしてどんだけ言うんだよ」
「ほんほほほほはひ」

ほんとのことだし、と言いたいのだが、明瞭な音声になってくれない。

「そんだけ言ってくれんのに、俺もそう思ってるとは、思わねえのか」

ミカサは自分を抱きしめてくれる男が、自分にだけはとてつもなく威力を発揮するニトログリセリンであるのを思い出した。容赦なく呆けた心臓に揺さぶりをかけてくるのだ。

「お前の成績いいとこが気に入ったとでも思うのか? 料理出来るから傍に置くってか。ドレス縫えるからか。家政婦募集の広告出したつもりはねえが。俺の誕生日祝うためのなんだかんだつくったからか。…そうじゃねえだろ」

痛い。ほら、また。甘い声で、平気な顔をして。わたしの心臓をやわらかく潰しにくるの。穏やかに、侵食してくる。

「俺が誘って本来あったはずの時間ロスしたって、課題サボったこと、ねえよな。何かあっても、俺のせいだって思わせねえためだ。成績落とさねえのは、頭いいのもあるだろうが、同じ理由だろ。料理つくってくれてありがてえのは、お前が心を込めてくれるのがわかってるからだ。おまけに美味いときてるしな。お前、菓子焼いたらちょっとでも焦げたのは自分の皿に置くし、カタチ整ってるの俺に寄越すよな。味変わらねえってのに。ドレス縫ってでも自分の『好き』貫いて譲らねえ根性も気に入ってる。誕生日祝うために寝る時間まで削ってくれたろ。時間かけて手間かけて、小遣い割いてあれこれ買ってまで、俺を喜ばせようとしてくれたその気持ちが嬉しいと思った。何か出来るから惚れたんじゃねえよ。モノくれるからでもねえ。モノのカタチとっちゃいるが、お前がくれるのはお前のキモチだろ。違うのか」

リヴァイは、自分の肩に顔を押し付けてふるふると横に首を振るミカサの頭をぽんぽんと軽くはたいた。

「俺がもし歩けなくなったら、どうする」
「一緒に居る! 私が出来る範囲でリヴァイを支え……、」
「傍に居てくれって言ったら」
「居る、……」
「な?」
「もぉやだ…」

馬鹿のひとつおぼえもいいところだ。相手の気持ちを慮ることも出来ず、ただぐずぐずと泣いている。

「キレてんじゃねえよ。オラ、行くぞ。痛えの忘れてねえか、お前」

手を握ってゆっくりと歩き出した。

「リヴァイ、ごめ」
「謝るの、ナシだ。謝罪を安売りすんのは感心しねえ。怒ってる訳じゃねえし、イヤな思いもしてねえからな。強いて言うなら、俺の大事なもんソマツに扱うのは腹立つからヤメロ」
「え、なに、私、リヴァイの大切なものに何かヒドイこと、」
「わかんねえのか。お前だろうが」

ミカサが後ろから抱きついたせいで、歩けなくなった。

オイ、スノウ・ホワイト。毒林檎売りつけるばあさん探しに行くぞコラ。




カバーとブランケットを剥がしてミカサをベッドに座らせると、結っている髪を解き、靴を脱がせて横たわらせた。その隣にリヴァイも横たわり、ブランケットを引き上げてミカサの身体を覆ってやった。腕で包んでやると、ミカサがぎゅうぎゅうと身体と頭を押し付けてくる。腕や指先は離すまいとして遠慮なく食い込んできた。

「寒いか」
「ううん。あったかい」
「眠くなったら遠慮要らねえからな。寝ちまえ」
「うん、……ありがとう」

ミカサは押し付けていた頭をふいに離すと、うにうにと身体を動かし始めた。リヴァイは不思議に思いながらも腕を緩める。する、と背を丸めると、ミカサが小さくなった。眠っている間に寝返りを打つことは稀にあるが、こうして自らそのつもりでわざわざ背を向けるのは初めてだった。

「リヴァイ」
「どうした」
「したかった?」
「あ?」

いきなりで何が何だかわからない。リヴァイは目の前の黒髪に覆われた後頭部を凝視した。

「キスだけじゃなくて、もっとその、」

言わんとすることが見えてきた。

「がっかりしたでしょ」

こればかりは何に傷ついて誰が傷つけたのか、明瞭に判る。リヴァイは目を伏せた。

「抱きてえのは否定しねえ。毎日でもヤリてえが、…出来なくてもそれはそれだ。死ぬ訳じゃねえよ」
「残念そうな顔したから、」

背を向けるために動いたせいで、ミカサの背はリヴァイの身体から僅かに離れていた。触れてはいない。ほんの数センチが奇妙に離れて見える。

「悪かった。そういうつもりじゃねえんだが、…お前にしてみりゃ、そう思うよな。すまない」
「ううん。私、リヴァイに何かしてあげられる訳じゃない。だから、気持ちよくなってもらえるのは、すごく嬉しい。こんな面倒なもののせいで、……」

そのことばで、ミカサがどれほど深く傷ついたかがわかり、リヴァイは歯噛みした。自分の身勝手さとくだらない欲のせいだ。それだけは間違いない。

ぎ、とスプリングの軋む音がして、ミカサは身体をより一層縮こまらせた。

「悪かった。月のものが来たってわかって、少しがっかりしたのは認める」

嘘をつかないのは、リヴァイのやさしさだから。そう思っても、ミカサは気持ちが落ちてゆくのを止められなかった。

「そんなことがあっちゃマズイのは、わかってる。今そうなるのは、お前のためにも良くねえのもな。ただ、一瞬、お前が簡単に手に入ったかもしれねえのにと思っちまった」

言っている意味がわからない。落ち込んだせいで、頭が回らないのだろうか。目の前がどんどん見えなくなるのは、薄暗さだけが原因ではないだろう。ミカサは鼻をすすり上げた。

「妊娠してねえのが、ハッキリしたからな」

にんしん。

「お前を手に入れる手段として子供産ませるなんぞ、胸糞悪いのはわかってんだ。わかってんのに、もし孕んだら、それ理由にお前を俺だけのものに出来ると、そう思った。お前にもガキにも何ひとついいことねえってのに」

リヴァイが後ろからミカサに覆い被さり、抱きしめた。

「悪かった」

耳元でささやくと、こめかみや耳の裏に唇を押し当てた。手でゆるゆると髪を撫でる。その手が、ミカサの腕とウエストの間にすべり込んで、平らな腹の上に留まった。
まだ何も宿しては居ない場所に。

「まだ痛むか」

どう答えればいいのだろう。痛いのは腰だの腹ではないのだ。胸が痛い。
セックス出来ないからがっかりしたんじゃなかった。どうかしてた。リヴァイはそんなひとじゃない。私を欲しいと言ってくれるけど、私の気持ちや体調だっていつもちゃんと気にかけてくれていたのに。

「私、またリヴァイを傷つけた」

震えているのが伝わってくる。

「声押し殺すな。悪いのは俺であって、お前じゃねえ。カラダ目当てだって思うのは、無理ねえよ。俺に遠慮して拒まねえだけで、お前にとっちゃ負担だったこともあっただろ」
「ちがう。ちがうの。そんなこと、ない。カラダでも何でも、リヴァイに受け取ってもらえるのは嬉しい。私はそれ以上にもらってるから。いつも大事にされてるクセに、……ひどいこと言って、」
「こっち向け」
「出来ない」

どんな顔で向かい合えばいいと言うのだろう。あれほど大切にされて、信用していなかったと宣言したようなものだ。

「悪かった。男の俺が思ってるより、カラダで繋がるのは、ずっと大事なことだろ。それ軽く見てるような態度取られたら、嫌気さすのも当然だ。お前は悪くねえ」
「ちがうの。ちがうの」

何もかも厭になる。泣いたらそれだけリヴァイを責めてしまう。泣きたい訳ではないのに。どうしていつもこう子供じみたことばかりしてしまうのだろう。

「こっち見ろ。隣に居るのに、……遠くてかなわねえ」

身体が動かない。ミカサはどんどん小さく丸まった。しゃくりあげるせいで身体が大きく揺れる。
違う。違う。違う。こんなことしたい訳じゃない。こんな態度を取りたい訳じゃない。

「自分責めるの、やめろ。罵倒される方がマシだ」

口を開いても、出てくるのは嗚咽で、ことばにならなかった。呼吸のリズムまでおかしくなる。

「ちょっと、我慢しろよ」

明かりが灯った。リモコンで操作したのだろう。
ミカサの代わりにぎしぎしとベッドが声を上げた。目の前に、それまでとは違った景色が映った。リヴァイが化石のように凝固したミカサの身体を支えてゆっくりと向きを変えさせたせいだった。穏やかな顔が見える。

「ほら、ちゃんと息しろ。……やっと手に入れたってのに、テメェの馬鹿さ加減で手放しかけてやがる。俺はまだお前の男か」

ぐしゃぐしゃの顔が更に涙で濡れた。

頭を抱え込まれ、もう一方の腕で抱き寄せられる。ミカサは呼吸するのがやっとだった。リヴァイの手が背中をさすり上下した。

「お前の背中見るの、クるな」
「かお、…いま、ヒド…ぃ、ごめ、リヴァ、わるくな、」

手放すくらいなら壊してやりたかった。今自分のせいで壊れそうになっているミカサを見るのは、ひどく辛い。それでも腕の中に封印出来る歓びに浸る自分にも気づいている。
自分の左胸に顔を埋めて泣くミカサが、泣き疲れて眠るまで、しばらくかかった。

可愛い恋人は、今日は白い兎に擬態しているらしい。目とその周りを真っ赤にしてふるふると震えて頼りなげだが、ぬくくやわらかく、確かに手の内にあるのだと実感した。




濡れたタオルで目元を覆われる。冷たさが心地よかった。

「リヴァイ、……ありが」

目を開くこともかなわないまま、唇にやわらかな印を押された。

「目、赤いな」

タオルを手に、今度はまなじりにキスをする。ミカサはその感触に、どうしたらこんな風にやさしく触れることが出来るのだろうかと考えた。自分には出来ない。

「もし、……子供が出来てたら、……嬉しかった?」

リヴァイは真っ直ぐにミカサを見つめた。

「お前が手に入るって意味ではな。……正直、お前に逢うまで、結婚だのガキだの、考えたことがなかった。俺には向かねえと思ってたし、所帯持って一緒にやっていきてえ女がこの世に居るとは思ってなかった」

俺と、結婚してくれ。

そのことばに、どれほどの重みがあったかを、ミカサは改めて噛み締める。

「そんな理由で生まれるなんざ、ガキにとってもサイアクだ。わかってんだ。今すぐにでも俺だけのものに出来るってだけで、……最低だな、俺は」

望まれて生まれ、愛されて育った。その自覚はある。それなのにそんな考え方しか出来ない自分に気づいている。リヴァイは自身への嫌悪感に顔を顰めた。

「こども、キライ?」
「好き嫌い言えるほど、関わったことがねえな」
「リヴァイなら、すごくいいお父さんになると思う」
「どうだかな。お前はいい母親になるだろうがな。でも、まだ先のことだ。高校出て、大学行って、」

ミカサがリヴァイの手の上に掌を重ねた。

「もし出来たら、産んでもいい?」

目を見開いて、ミカサを凝視した。

「お前、」
「それがいつでも、産んでいい?」

ひたむきなまなざしはいつ見ても眩しく思える。

「俺の子供を、……いいのか、」
「その、もちろん、まだ覚悟なんてないし、もう少し先がいい。もっとリヴァイと二人きりで過ごしたい。でも、もし、思ってたより早く出来ちゃったとしても、産んでもいい?」
「産むのはお前だ。しかも命懸けでな。お前、それでいいのか」

どこかで、子供を持つことに対して具体的に望んでいる訳ではないことを自覚してはいた。最低なのもわかった上で、「手段」としてとらえていた。
しかし、今はふと小さなミカサの分身が走り回るその後ろ姿を見るのはどんな気分だろうと考えている。ふわふわさらさらと踊る黒髪、賑やかにはしゃぐ声、覚束ない足取りで縦横無尽に部屋を駆け回る小さなからだ。黒い瞳と小さな口が愛らしいに違いない。母親譲りの少しエキゾティックな顔立ちと、どことなく勝気さを潜ませた口調や目つき。ませた口を利いて、父親を翻弄するのだ。

「リヴァイによく似た男の子なら、すごく可愛いと思う」

ミカサは照れたように微笑んだ。

「お前に似た娘のがいいだ…」

あまりにするりと容易く出てきたことばに、自分自身がいちばん驚いていた。リヴァイは僅かに愕然とする。

「夢みたい」
「俺に似たガキ、って、……ぶん殴りたくなりそうだ」
「ダメ! 絶対可愛いんだから!」

ミカサがリヴァイの頬にキスをした。

「いいのか」
「だいじょうぶ。すごく大変だって聞いてるし、ラクじゃないとは思うけど、いつかは、欲しい。大丈夫。私は健康。とてもとても健康。すごく健康! 命懸けだとしても、……唯一の魔法はリヴァイの為に取っておくから」
「何だそりゃ」
「代わりに死んであげられるのは、一度しか出来ない。私が使えるたったひとつの魔法。子供を産んだくらいで死んだりしない、ので、大丈夫!」
「ふざけんなよ、馬鹿野郎。二度とそんなこと言うな」

ぎゅう、と強く抱きしめられて、ミカサはまた微笑んだ。リヴァイになら、何でもあげられる。惜しいものなんてなんにもない。

「それに、ずっとずっと一緒に居たい」
「忘れんなよ、そのことば」
「永遠が短いって呆れるくらい、ずっと一緒がいい」
「ウンザリするくらい、一緒に居てやるよ」

うん。そうして欲しい。ずっとずっとずっと。

「お前、明日も来いよ」
「……こんなに鬱陶しい思いさせられて、まだ一緒に過ごそうと思えるの?」
「忍耐力は試されてるが、鬱陶しくはねえな」
「? 忍耐を強いられるって、イヤなものじゃないの?」
「ヤりてえの我慢すんのは堪える。お前、なんなんだよ。ふだんからそういう態度取れねえのか。ヤれねえ時ばっかクソ可愛いツラして甘えやがって」

ミカサの頬に、あも、とかじりついた。

「か、からだめあて?」

照れたミカサはようやくそれだけぼそりとつぶやいた。頬や耳朶をはむはむと食まれ、くすぐったい。

「しょうがねえだろ。お前じゃねえと勃たねえし」
「リ、……!」

ますます顔が赤くなる。もう耳まで染まっていた。

「責任取れよ?」

リヴァイの肩に顎を載せてみた。当然のように両腕で包まれる。あたたかさが心地いい。

「も、もう少し先になるけど」
「おう。久しぶりに風呂一緒に入るか」
「やだ…」
「決まりだな」
「ばかなの? 耳にカビの生えたパンでも詰まってる?」
「キモチ悪ぃことヌカすんじゃねえよ。風呂四つん這いで入らせるからな。後ろから洗ってやる」
「へんたい!!」 

全部あげる。からだでもこころでも、たましいでも。なにもかも。
リヴァイだって、私を甘やかしておいて、いつもよりもっとずっと可愛いって、なんなの?




次の日も、学校が終わると、ミカサはリヴァイに連れられてアパートを訪れた。一緒に紅茶を飲み、添い寝してもらい、穏やかに過ごした。苛立ちも湧かず、悲しくもならなかった。
満たされて、しあわせで、泣きたくなりはしたのだが。
ただぬくぬくとあたたかく心地いい。

「リヴァイ。私と暮らしていけそう?」

黙って抱きしめられて、ミカサはうっとりと笑みを浮かべた。

何かあっても何もなくても、大事にされてる。私もリヴァイをそんな風に大事にしてあげられるようになりたい。

霧のように細やかな雨は部屋の中でも降るのだと、いつか自分の子供に教えてやれる日がくればいいと思う。

それを降らせるのはあなたのおとうさんなの。あなたのおとうさんはね、魔法が使えるの。すごいでしょ。その魔法はね、私とあなただけにかけてくれる、とっておきなのよ。




小さな男の子の笑い声が、聞こえた気がした。あるいは、雨の音かもしれない。

どちらにしても、それはきっと、あなたに似ている。
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2018/02/21 (Wed) 16:19 | REPLY |   

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2018/02/17 (Sat) 23:03 | REPLY |   

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2018/02/16 (Fri) 22:27 | REPLY |   

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