お付き合い、始めました。4

「ところで。今朝は食堂で見かけなかったのですが」
「あ?」
ミカサの目が若干据わっているように見える。何だそのツラは。リヴァイはミカサの目を見つめ返した。
「ちゃんと、食べているのでしょうか」
幹部であれ新兵であれ、兵士は基本的には食堂で食事をする。親睦を深めつつ、穏やかに、時に和やかに、あるいは壁外調査を前に緊張に包まれながら。歓談の時間も兼ねているので、大抵は同期同士、班員同士、幹部同士で席を囲む。場合によっては「リヴァイ班」という単位でテーブルに着くこともある。今朝はいつものように104期生同士でテーブルを囲んだ。
ミカサは朝食の時間、少し遠くにある幹部たちが座るテーブルを何度か見やったのだが、リヴァイの姿は見かけないままだった。
「ああ、少し用があったんでな。間に合わなかった」
「つまり、食べてない?」
「何だ、心配してんのか」
「そういう訳では、……その、そういう訳ではないこともない」
「どっちだ」
リヴァイのからかいたげな口調に気づいて、ミカサはむう、と軽くふくれた。頬がふんわりと赤い。
「適当に食ってる。心配いらねえ。茶もあるしな」
正直に言えば、兵団での食事は最低限のものであり、豊かとは言えない。パン、スウプやちょっとした煮込み程度のものだ。肉が食卓に上ることなどついぞ見たことがない。開拓地よりややマシな程度だろうか。
「あまりちゃんと食べているのを見たことがない。それではいずれ健康に問題が出る」
なるほど。エレンが反発する訳か。リヴァイは少し納得する。母親の気遣いを煙たがる年頃に、コレは少し鬱陶しいのだろう。
「お前から見て、今までの俺には不足があったか」
ミカサははっとして顔を上げる。人類最強と言われる戦闘能力には圧倒されるばかりで、その技量は疑うべくもない。
リヴァイは怒ってもおらず不機嫌でもないらしかった。穏やかな顔をしている。
「いえ、そんなことは。……ただ、……怪我もされていたし、今後何かあったらと」
ミカサの表情がじんわりと曇る。
「まだ気にしてんのか」
ぽふん、と頭の上に手が置かれてミカサはその手の主を見つめる。わしゃわしゃ、と髪をかき回された。
「とりあえず、お前もお前で豆を残さず食ってから俺の心配しろ。エレンにあれ食えこれ食え言う割に片手落ちじゃねえか」
「! どうしてそれを」
好き嫌いはないつもりなのだが、豆は少しニガテなのだ。気づくとスプーンではじいて皿の端に寄せてしまう。何も知らない顔をして、ちゃんとあれこれ目が届いているのは相変わらずだ。少し悔しい気持ちになるのを抑えられない。ミカサの頬はより紅潮した。
「さあな」
頭を撫でていた手が、するりと頬にすべり落ちてくる。頬の傷を撫でたのか、肌の赤みを辿ったのか。手は長くは滞在しなかったが、ミカサの体温と鼓動の速さを上昇させた。
「これからエルヴィンのところで会合がある。また夜にな」
さらりと夜に落ち合う約束までされてしまった。流されていると思いつつもイヤではない自分がミカサは少し恥ずかしい。
「はい」
リヴァイが立ち上がるとゆっくりと踵を返す。
「あの」
「何だ」
「つくったら、食べてくれますか」
ぴたり。歩が止まる。わずかに顔がミカサの方に向けられるが表情がわかるほどではない。
「おう。だがまあその気持ちだけで十分だ。……いい子にしてろよ」
返事を残して去っていった。歩く姿を見て、足の回復の度合いを推し量る。かなり不自然さはなくなった。ミカサは髪を整えながら、安堵のため息を漏らした。

:笑いは駆逐されました(戦慄)。
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