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黒豹は夜を切り取らない。

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Happiness & Smiles―Devil I Know Seasonal-2.5

Category - Devil I Know
DIK-2-5.jpg

Good girls go to heaven, bad girls go everywhere.
 ――いい女の子は天国に行ける。悪い女の子はどこにでも行ける。(アン・ウエスト)


Happy New Year! May this be a happy and fruitful year.

昨年からお付き合い下さってる皆様
今年もどうぞよろしくお願い致します。
初めての方もどうぞよしなに。

昨年からいきなりりばみか小説を書き始めたのですが、
ぶろぐやついった、支部で知り合えたりばみかすきーの皆様のおかげで
とても楽しい一年になりました。
年末年始、ご挨拶をさせて頂いてとてもシアワセで
無駄にテンションが上がったので
予定になかったけどぼんやり頭の中にあった
「いけ年こい年すくかーりばみかちゃん」Ver.を。
お年賀代わりにうp致します。ご笑納のほどを。

くりすますくかーこと「Holy & Bright」未読の方は回れ右。
基本1作目からずっと繋がっております。

次のヴァレンタイン書けやというハナシなのですが
「掃除してる時になんかのコミックスの3巻に手を付けたら
前後気になってしょうがなくて掃除そっちのけで
全20巻読んじゃった」的なカンジのあるある現象です。
「ガラスの仮面」じゃなくて良かった。あっぶね。

りばみかちゃんとヌカしておりますが、
基本エレンとアルミンとミカサがきゃっきゃしてます。
寒さでエレンが壊れてます。ちょっとだけジャンくんも出ます。

三十路過ぎの永年発情期がちょっとやらかしますが
描写はないのでセーフ!
精神年齢18歳以上の方でお願い致します。
クリスマスからそれほど経過していないので
勢いが止まらないダメなオトナが居ます。
がんばれごすみっか…

タイトル、字数の関係で私のみ便宜上使用するシリィズ名使用。
どんなリヴァミカでも大丈夫な方のみ、どうぞ。

20180102→
fireworks.jpg

「僕、こういうイベント直接見るのって初めてだ」

ふわ、と靄が広がり、夜がけぶる。

「私も! いつもテレビでタイムズ・スクエアでやってるアレ、観るだけ」

内側にボアのついたヌバックのソフト・ブーツは黒だった。くしゅくしゅとわずかに弛ませたように見えるそれを履くすらりと伸びた足が雪を踏み固めるように時折足踏みする。

「あ~~~~さみィ……」
「僕も! アレ、すごいよね! あれってさ、場所取りのためにものすごく早めに会場の区画行くんだけど、そこから動けなくってトイレ大変なんだって。でもそこまでしても観る価値あるって言うよね。元々その区画に住んでるひとも、手続きしないと出たら戻れないってスゴイよ」
「あ、そのハナシ知ってる! ……おむつつけて参戦するひとも居るって聞いた! もうテレビの向こうに居るひとみんな着けてるのかと思うと、」
「ぶはっ!!」
アルミンは笑う自分の震動を押さえ込み、カップを掴み直す。手袋をしている手は滑りやすいのが難点だ。
「だって、かっこいいアーティストのライヴに夢中になってるそのひとも、恋人の肩にもたれてうっとり上見上げてるひとも、すごくおしゃれにキメてるひとも、みんな実は、おむつ…」
「ミカサ! 寒くて歯の根が合わないのに、…ふはっ…、あんまり笑わせないでよ! みんなってワケじゃ、……ふふふ、ははっ、」

N.Y.のタイムズ・スクエアのカウントダウン・イベントは今や世界中に知られており、わざわざそこでこそその瞬間を迎えるために訪れる観光客が国の内外を問わず存在している。時期的にも冷え込みが厳しい場合が多いのだが、著名かつ人気の高いアーティストのライヴなどが行われ、およそ百万人は集うと言われており、テレビでも大々的に中継されるそれを眺めながら年を越す者も多い。
雪のように舞い踊る色とりどりの紙ふぶき、打ち上げられる花火、笑顔と歓声、キスと抱擁。クリスマスは家族と迎える日だが、年末のカウントダウンは友人や恋人との時間かもしれない。
クリスマスという最大イベントを終えた後、通常モードに再度切り替わるのだが、この年越しのイベントでははじけて盛り上がる。

「うう、さみぃ…」
「はあ。あつあつのホット・レモネードがこんなに美味しく感じるのも初めてかも」
息でほわ、と空気を白く染めてから、アルミンはこくりと飲み込んで言った。

蓋の付いたダブル・ウォールのカップには去ってゆく年と迎える年、それぞれを矢印で繋いだ西暦が刻印されている。耐熱性の高いAS素材で出来たクリアなリユーザブル・カップで、アルミンは黄色、ミカサはピンクのそれを手に持っていた。

「うん、あつあつ、すっごく美味しい! このお店のアーモンド・クランチがけのマシュマロがダイヴしたホット・チョコレート、悪魔の美味しさ! いつにも増して肥る味がする…! 何か大事なものを手放しそう。ダイエット意識とか我慢とか!」
「ホントにね、あっつあつがいいよね。その地獄フレイヴァとこのレモネード、かなり迷ったよ」
「もうグラハム・クッキィも砕いて入れてスモア・ドリンクでいい気がする…家でつくりたい」
「ふふっ。なんかもう、スタバの飲み物みたいだね」
「そうかも! ふふふ」
「あああああああああああああああああああっ、さみぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい……!」

エレンがいきなり雄叫びを上げた。

「エレン、元気。とても、元気。こんなに寒いのに。さすが私の闇の騎士」
ミカサは少し目を丸くして言った。視線に畏敬の念が含まれているのに気づいたアルミンが苦笑した。いや、ミカサ、それ違うからね?
「お前はどこに目ェついてんだ! コレが元気か!? さみーんだよ!! 何だよこのクソ寒いの!!」

エレンが声を張り上げれば張り上げるほど、ミカサには元気にしか見えない、のだが。

「冬?」
「と、寒波の影響かな」
ミカサとアルミンが冷静に返した。小さく開いた口から湯気の棚引くホット・ドリンクを飲むことも忘れずに。

夜の黒に白い靄を生成しているのはほかでもない、三人だった。ほんの少し会話を交わすだけで周囲に立ち込めそうな勢いだった。それでも、周りに飾られた電飾やカラフルなランタンのおかげで彩りはある。真っ黒なキャンバスに絵の具を塗りつけたようだった。
この三人に限らず、辺りには靄を生産するコロニィだらけだ。誰もが寒さに震えながらも友人や恋人と笑顔を交わしことばを交わしている。来るべき四桁の西暦の数字をデザインした玩具っぽさ満点の眼鏡をかけている男性が居るかと思えば、アルコールでも入っているのか軽装で駆けずり回っている大学生らしき集団も居た。ウォール・ハイの生徒もちらほら見える。
ほんの数年前から始まった地元でのイベントだが、思っていたよりも規模が大きかった。もっとこぢんまりしたものだとミカサたちは思っていたのだ。大都市やアミューズメント・パークで開催されるそれに比べればおとなしいものだろうが、それでもなかなかの盛り上がりを感じた。

遠くに大きな電光掲示板のようなものがあり、時間を秒まで刻んでいるのが見える。

ああ、このカラフルなカンジ。子供の頃から食べてるキャンディのパッケージにも似てるかも。黒地にぱっきりした鮮やかな色んな色のまん丸なキャンディが鏤めてあるヤツ! ミカサは頭の中に思い描く。
私は袋入りしか知らないけど、お母さんは缶のがあったって言って、いくつか持ってた。ひとつもらったけど、やっぱり可愛い。ミカサはそれもお気に入りのひとつで、ステッカーを入れて現役で使っている。
大人っぽくてポップで、でも上品で、かっこいいけど可愛いの。復刻デザインで出してくれたらいいのに。

「寒い」という事実を追い出したくてたまらない。ミカサは敢えてアルミンやエレンに話しかけ、ちょっとでも目についたものから連想を働かせてはあれこれと思いを巡らせていた。

もう! 顔が痛い!! 

エレンのダウン・ジャケットのフード。フェイク・ファーで縁取ってるのって、やっぱり可愛い。あのショコラトリィで着させてもらった服も、可愛かった! こんな寒い日じゃなかったら、ブーティもおしゃれでいいと思う。レッグ・ウォーマーがあれば大丈夫? でもゴシック・テイストにどうやって合わせるの? 手作りするしかないと思う。フリースでつくってレースとか? 黒のサーマルにレースとピューターのチャーム? ううん、寒さ対策ならすっきりと黒のタイツの上に柄入りのタイツ重ね履き?

必死になっている自分に、ちょっと笑えてきてしまった。でも、だって、痛い!! イヤー・マフをしてきたのは正解だった。耳がちぎれそうな不安に晒されることがない。
またホット・チョコレートを口に含んだ。

マフラーをぐるぐる巻きにしてダウン・ジャケットを着てもなお寒そうに首をすくめているエレン。ウールとダウンに防備されてもまだ足りないらしい。フードも被っている。口元から鼻もマフラーに埋もれているために、怒りに満ちたような瞳だけがギラギラしていた。
アルミンはダッフル・コートの下にセーターを二枚着込み、その下にはTシャツと水分を熱に変換するタイプのアンダーウェアも着てきたと言っていた。もちろん、首にはマフラーを巻いている。
ミカサはその寒さにしては、すっきりとしてエレガントに見えたかもしれない。大きなボタンで留める、ゆったりとしたコクーン・シルエットの黒のカーディガンに、チュール・レースを幾層にも重ねたパニエと雪の結晶を描く白いレースのオーバー・スカート。

寒かろうがなんだろうが、キライなテイストのファッションにだけはしたくなかった。寒さを理由に好むファッションを簡単に放棄するなど、「好き」でもなんでもないではないか。好きなテイストの内でアレンジして寒さを凌いでこそのはずだ。

北極とかアイスランドだったら、ちょっと考えるけど。アラスカとかも、うん。こ、この程度ではまだ「好み」優先!

カーディガンのインには黒のハイネック、ロザリオとネックレスの重ねづけをしている。その上に、やや崩すようにカーキ色のモッズ・コートを羽織っていた。腕には、黒地の布とレースで自らつくった腕章や、ゴシック・テイストを意識したピンズを付けてアクセントにしていた。腕章には片翼をデフォルメした形のワッペンがあるが、それはミカサにとってはリヴァイを意味していた。

風を切るように前に進む姿や、その速度はミカサにとってはとても新鮮だった。リヴァイは、どこにでも行ける翼を持っている気が、する。

コートの内側にはやはりボアのライナーがあって寒さを和らげることに一役買っている。イヤー・マフはボンネやヘッド・ドレスを思わせるが、素材はフェイクファーだった。小物は手袋も含め、黒で統一している。この厳寒のさなか、素足で歩き回る気力も忍耐力もないため、二枚履きのスパッツにタイツのフリをさせた。
手元には、黒猫の顔をかたどったバッグ。少し邪悪なカオをしているのと、見た目より容量があること、ちゃんと裏にしっぽもついているところがミカサのお気に入りのポイントだ。

登山用品ブランドのインナーを買って、良かったと思う。リヴァイに教えてもらったの。機能的であたたかくていいんだって。考えてみたら確かに寒さにうってつけだと思う! 黒のあっさりしたデザインだと、肌寒い春先のジャケットのインにしても大丈夫なカンジ。カナダとかスイスとかフランスとか、ちょっとお高いブランドのいいのを買ったら、確かにあったかい!

リヴァイって、寒い時もあんまりもこもこしてないの。ダウンのものを着ても、どこかすらっとして見えるし、いつも通りスレンダーなまま、しれっとした顔で。口では寒いって言うけど、平気そう。だから、何でそんな薄着なの、って訊いたら、そうは見えないだけでしっかり着込んでる、ってヒミツを教えてくれたのが登山用インナー。だから服を脱がせてあげた時、

「ミカサ? 大丈夫? 顔、真っ赤」
「あ、うん、やっぱり、ホラ、寒いから! ね!」

びょいんびょいんと跳ね回るエレン。寒さでじっとしているのが耐えられないらしい。跳ねたかと思えば歩き回ったり、と実に忙しない。

「あー、……これ、アレかな、止まったら最後ってヤツかな…」
「アルミン、エレンは鮫でも鮪でもない……」
「ぶっ!! そういえば鳩が歩いてる時のあの首の動き、あれ止めたら、」
「お前らいい加減にしろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!! お前らが来い来い言うから来てやったんだろーがああああああああああ!!」

エレンがぴょんぴょんしながらも詰め寄るのと、厳し過ぎる寒さとで、余計に笑いがこみ上げてしまったらしい。アルミンは楽しそうに笑った。新たに吐き出された息が辺りを白く染める。

「だ、だって、ミカサが、」

びょいんびょいんびょいん。エレンは跳ねている。アルミンは手に持っているカップを落とすまいと必死なのに、笑いが止まらない。よろけそうになりつつ体勢を無理に保とうとして妙なポーズでふらふらしていた。

「そうだ、お前もだっ」

びよんびよんびよん。跳ねながらも目を吊り上げてミカサに詰め寄った。
エレン、ジャンを撃退した時の凛々しさも素敵だけど、これはこれで可愛くて、……!

ミカサは思わず声を出して笑った。

近くにジャンが居ればその笑顔に見蕩れたことだろう。

「おおおおお、ミカサが笑って、……なんだよクッソ可愛いなオイ!! この寒い中来て良かった! てか来てたのか! やった! 生きてて良かった! 近く! 近く行こうぜ、俺!! あの笑顔を目に焼きつけて新年迎えるんだ! 待ってろパラダイス!!」

ホット・ドリンクを片手に良さそうな場所を探していたジャンは、ミカサの笑顔で倒れそうになるのをどうにか堪えた。近くには居なかったが、遠くから目撃していたのだ。
相変わらずバッド・ボーイ気取りなのだが、手に持っているのはアルコールなどでなく、甘さのありそうなホット・ドリンクに見えた。


今年は、すごく素敵な一年だった。ミカサは微笑んだ。

アルミンとエレンとは、少しずつ前よりもっと仲良くなれたと感じる。同学年の子たちの顔と名前が一致するようになったのも進歩だと思う。
そんな風に思えるようになるとは考えてもみなかった。

そして、ミカサは引きずられるように思い返す。とっておきで素敵な想い出は、全て同じひとからもたらされた。

夏休みに一緒に過ごした。三週間も。同じ屋根の下で寝起きして。すごく嬉しくて楽しかった。ハロウィンは、体育館に仮装して来てくれて、アパートに連れ去ってくれた。ファントムの仮装、すごくかっこよかった! 感謝祭にパイを一緒に食べて。
それから。ついこの前のクリスマス。もう、絶対、一生忘れない。

ゆびわ。とくべつなゆびわを、もらったの。あたらしい、ひみつ。

ハイネックのカットソーの下に、細めのワックス・コードで首から下げている。ロザリオ以上に、今の自分にはお守りのようだとミカサは思った。

家族の誰も居ない大きな家で、ひとりで過ごさなくちゃいけない私のところに、寒くて雪が降る中、すぐに来てくれた。寒くもさびしくもなくなって、本当に嬉しかった。
新しいヒミツを二つももらって。きん色の甘い甘いワインも嬉しかった。
リヴァイが居てくれるだけで、私は世界一しあわせなおんなのこになれて、オヒメサマみたいに大事にされる。リヴァイに何をしてあげたら、しあわせって思ってくれるんだろう。もらったもの以上に、あげたいのに。

「もう! エレン、ホラ、落ち着いて! もうじきカウント・ダウン始まる頃じゃない?」
「これで花火ショボかったらどうしてくれんだ。…アルミン。ショボかったら、なんかあったかいもん、おごれよ」
びよん、びよん、びよん。エレンは跳びはねるへんないきものと化している。アルミンは、カップの中が全て胃に収まったのか、へんないきもの二号になりつつあった。黙っていると深々と寒さが染みるような気がする。
「ええええええええ! 一緒に買おうって言ったの、スルーしたのエレン!」
「いいだろ、誘ったの、お前らだぞ!」
「エレン。意味がわからない。でも、私の騎士には私から、あたたかい飲み物を捧げてあげる」

ミカサはふう、と小さなため息をついて「闇の騎士」に告げた。私は貴婦人なんかではないけれど、騎士には時々、返してあげなくては。愛とかそういうのは、その、ベツなヒトのものだから、そう、あったかい飲み物なんかを。

「しょうがないなあ。僕も半分出して、エレンに恩を売っておくよ」
「なんだとぉ?」

男子二人はなにやらとても賑やかで、ミカサは現実に引き戻された。

年が明けて、冬休みが終わる前に、また逢いたい。約束取り付ける電話、しなくちゃ。リヴァイはきっと逢ってくれる。
今日のコレは、何枚か写真も撮ったし、メールに添付して送ってみよう。

わ、と声が上がった。いよいよ、掲示板に表示されている時計が新たな年が来る間際だと伝えているのだ。マイクを通した声が反響し、時折ハウリングを起こしながらも、さあ盛り上がれと煽り始めている。
やや散らばり気味だったコロニィが徐々に収束して、その中の誰もが期待に目を輝かせて同じ方向を見つめていた。

《いいか、みんな! 今年にオサラバして、新しい年にゴアイサツだ! そんじゃまあ、一緒に!!》

MC役の声が響く。クラブのDJにでも頼んだのかもしれない。ノせるのが上手く集まった人々が口笛を吹き歓声で応えた。

時計の表示が変わった瞬間、合図もなしに皆が同時に口を開いた。アルミンとミカサもその小さな口から声を張り上げる。どちらも控え目なものだったが、それで十分だった。
エレンの背中に手が二つ置かれた。両脇に黒髪の少女と金髪の少年が笑っている。エレンは、すう、と息を吸い込んだ。

「…………スリー! ツー! ワーン!」

ドン、と派手な音がして、僅かに地鳴りがした。

「ハッピィ・ニュウ・イヤー!!」

夜空に、弾ける音と共に一斉に熱を伴う大輪の花々が咲き誇り、歓声や嬉しそうな悲鳴が轟いた。

「明けたね! ハッピィ・ニュウ・イヤー、エレン!」
アルミンがエレンに抱きつくと、一瞬呆気に取られた顔をして、それから小さくため息をつき、……少し照れ臭そうにアルミンをハグして背中をぺしぺしと軽く叩いた。それから、頭の上に手を載せ、笑って、ぎゅうと押し付ける。アルミンは抵抗しながらやはり笑った。
「花火、すげえな。見ろよ」
青、赤、黄。広がっては散り、また打ち上げられる。音が響く度に新しい歓声も上がった。
「コレ、ショボいと思わないよね? エレン」
「……認める。結構、……すげえ」
「でしょ?」
「でも、おごれよ?」
「仕方ないなあ、ホントに」

エレン! ミカサは少し涙ぐみそうになった。
私たちの間にある距離は、前よりずっと縮まって、近くなってるって、思っていい?

周囲からはもはや新年を祝う声しか聞こえず、ぐるりと見渡すと、抱き合うひと、キスをするカップル、仲間と円陣を組むように抱き合う一団、笑顔しかなかった。

ドン、とまた音が響いた。皆抱き合ったり肩を組んで空を見上げる。

「新年最初のキスは、」

頭の上からばさりと何かが被さり、それに覆われたままミカサはぐいと引き寄せられた。

「ほかの野郎にされてねえだろうな」
「リヴァ――」

黒のカシミアの大きなストールごと抱きしめられて、包まれながら唇を塞がれた。

誰彼となくキスを交わしハグをし合い、大輪を咲かせる花火に見入っている。その中で、ミカサが誰かに抱きしめられてキスされていようと、どうでもいいことだ。

「ハッピィ・ニュウ・イヤー、リヴァイ。また私を見つけてくれたの?」

ミカサは唇を解放されて、満足げにため息をつくと、はにかみながらリヴァイに尋ねた。ストールがヴェールのようにミカサを包み込む。
エレンとアルミンと三人で行くとしか、伝えていないのに。

「たかが人ごみ、テメェの嫁も見つけられねえんじゃ、お前の男にゃふさわしくねえだろ」

後ろから花火見たさに進んでくる人波にゆるゆるともまれていた。年明けに抱き合うカップルなどというよくある光景に、誰も目を留めない。見たいのは、夜空に咲く花々と、これからくる未来だ。

「だって、どうやって? こんなに沢山ひとが居るのに、」
「いちばんいい女探しゃいいだけだ。簡単じゃねえか」
「も、…リヴァイ、」

真顔で言われてミカサはことばを失った。寒さで痛かった顔が余計赤みをはらんだように感じた。

「友達に挨拶して来い。俺のアパート来るだろ」
「いいの!?」
「このクッソ寒い中外出たから、暖取らねえとな」
「あつあつの紅茶? 今日ならブラックでもいい!」
ミカサが微笑む。さっき罪深い味のホット・チョコレートを飲んだばかりだ。甘さはなくても構わない気がした。

ふいにリヴァイの腕がミカサの頭を抱き寄せて、耳元に顔を寄せた。

「欲しけりゃ淹れてやるが、俺はお前もらうからな。甘いのがいい。今日はおあつらえ向きにチョコレートの味してやがる」

寒さ以外で凍りつく羽目になるとは。小さな口をあんぐりと開けてリヴァイを見る。

その視線で、寒波をどこかに消し去ってくれたらいいの!

「ミカサー!? ミカサー!!」
雑踏の喧騒を縫うように、声が聞こえてきた。
「あ。アルミン?」
伸びをする。女の身にしては上背のある方ではあるのだが、こうもひとが多いと小柄なアルミンやそのそばに居るはずのエレンを見つけるのはなかなかの至難の業だ。
「お呼びだ、オヒメサマ」
「もう! オヒメサマなんかじゃな」

振り返っても、そこには居なかった。人ごみの中に紛れたのだろう。小柄な分視界から消えるのが速い、…だけ?
…小柄で、こんなにひとが居たら、たったひとり探し出すなんて、私以上に難しいはずなのに。

ふしぎなひと。私なんかを抱きしめてくれる。どんな場所に居ても見つけてくれる。

これは、スマートフォンで連絡を取り合って落ち合おうということか。ミカサは自分の後ろに広がる闇夜を見つめた。

夜に紛れてこのまま何処か二人きりでいけたらいいのに。リヴァイのアパートは大好き。清潔ですっきりしてて。
でも、どこか、遠く。帰って来られないような場所。今は何だか、逃げたいっていうよりも、二人でならどれくらい、どこまでいけるのか、知りたい。
あの速さで。風を切るみたいにして。絶対気持ちいい。
きっと、私たちに追いつけるひとなんて、居ない。

ミカサの唇が、ゆる、と三日月の形を描き出した。

私だけのやさしい悪魔。夜に似てるひと。少しの不安と包まれる安堵をくれる。リヴァイは夜。静かで穏やかで、ちょっと怖くて、秘密を隠してる。でも、「ルシファー」は「光をもたらす者」って意味だから。光をもたらしてくれる、誰よりもやさしい悪魔。

いい女の子は天国に行ける。悪い女の子は……どこにでも行ける。

素敵。神様が救ってくれないおんなのこには、悪魔が手を差し出してくれる。抱きしめて甘やかしてダメにして、何も出来ない悪い子の私に、それでもいいんだってキスしてくれる。
いちばん悪辣な堕落させる方法を、あのひとは知ってるの。
この手の薬指に、指輪をはめてくれた。リヴァイのものだって印をくれた。

ストールは前にかけてくれた白いものと色違いに思われた。なめらかな肌触りと心地よいあたたかさ。ミカサは首の周りにふわりと巻きつけた。抱きしめられている気分になった。

「あっ、良かった。ミカサ! 探したよ!」
「ごめんなさい。ちょっと見蕩れてたら花火をもっと見たいひとたちの波に飲まれてた! アルミン、ハッピィ・ニュウ・イヤー!!」

私が見蕩れてたのは、不機嫌な顔をした、すごくムカつくかわいいひとだけど。

「わっ!」

アルミンが思わず声を上げた。ミカサがアルミンに抱きついたのだ。アルミンもハグを返した。お互いに笑い合う。
また一年、仲良くしてね。ミカサが微笑むと、アルミンも微笑んだ。

「エレン! ハッピィ・ニュウ・イヤー!」
「うおっ!!」

もこもこのエレンをハグする。ああもう。マシュマロ・マンみたいになっちゃって。騎士って自覚がないのが、エレンのすごさなの?

「乗り気じゃなかったのに、一緒に来てくれてありがとう! お父さんが車を出して下さったのも感謝してる。また素敵な思い出が出来た!」
「いや、まあ、その、……花火、そんなショボくもなかったし、……悪くなかった。あり得ねえくらい寒いけどな!」

エレンはミカサの肩に片腕を回して、ぎゅ、とハグした。ぎこちないけれど、エレンの不器用なやさしさそのものだとミカサは思う。見守るアルミンと顔を見合わせてまた笑い合った。

「エレン。去年は色々ありがとう。今年も素敵な一年になりますように!」
「……ん。まあ、その、お前もな。今年はあの掃除のひとに睨まれんのはご免だわ。おっかねえのなんの!」

えっと。うん。不機嫌全開に見えるけど、ホントは、その、すごくすごくやさしいの。本当はね。

「オイ、エレン! お前、なにミカサとくっついて、……離れろよ、ふっざけんな!! お前も止めろよオタク野郎!! ミカサ! 今日もイケてんな! 可愛いぞ、おま…いや、その、おう、そうだ、そのバッグ!」
やはり根は悪くないのだろう。内容はさておき、なんだかんだで三人全員にちゃんと声をかけている。
「うわ。うぜえの来た」
「お前だろーが!!」
「はぁ!?」

ジャンだ。よくわからない不良気取りの同級生も、今は名前を呼べて、…ワルぶってるだけのちょっと困ったコだとわかる誰かになった。
ミカサは苦笑いする。こんなやり取りを見るのは何度目だろう。

「新年早々賑やか。はい、エレン、早速力の見せ所。あ! ゲッシュ、必要?」
「お前な、俺はポケモンか!? てか、ゲッシュて何だよ!」
「エレンだったら、…なんだろう、…キテルグマ?」
「アルミン、いい加減にしろ! つーかなんだソレ!?」
「どうでもいいからミカサから離れろや!」
「俺はくっついてねえだろ!」
「え、ちょっとくっついてたよ?」
「エレン、落ち着いて。あ、アルミン、キテル…ってナニ?」
「いやソコどうでもいいだろ! てか遅えよ!」
「そう言うエレンも訊いていた!」
「みんな落ち着こう?」
「落ち着けるかあああ! エレン、離れろっつってんだろうが!!」

新年早々の騒々しさと賑やかさ。空には花火。周りには笑顔。

世界はとても、…とても、美しい。私には、素敵な友達が居て、……リヴァイが居る。

「あ」

ミカサがコートのポケットに手を突っ込んで、スマートフォンを取り出した。メールの着信を知らせる震動が唸りを上げている。

「エレン。アルミン。私、迎えに来てくれるって、連絡が来た。カウントダウン、楽しかった。ありがとう! 冬休み明け、また。あ、アルミン、これ、エレンの飲み物の」
バッグから財布を取り出して、紙幣と小銭を渡す。アルミンは少し困ったように笑って受け取った。エレンには甘いなあ。
「そっか。じゃあエレンのお父さんの車で帰らせてもらうのは、僕だけだね。気をつけてね」
「うん」
「またな」
「うん」

エレン。「また」って言ってくれて、ありがとう。
アルミン。いつも気遣ってくれてありがとう。

「ジャン」
「ほぅあ!?」

驚き過ぎて、妙な声が出たらしい。アルミンは思わず口元を押さえた。ここでうっかり笑ってはまた絡まれてしまう。

「ハッピィ・ニュウ・イヤー。あと、肩に雪。一体、どんなところを歩いたの」

ミカサの手が、ぽんぽん、と雪を払った。
エレンが居てくれるからおとなしい。エレンは頼りになる。私の闇の騎士は素晴らしい。

「お、おう! はははははっぴーぬーいやー!!」

声が上ずっている。

「じゃあ、またね」

「お。お前、なんかイイモノ持ってんな」
ジャンの手には蓋付きの青いカップがあった。小さな飲み口からするすると湯気が立ち上っている。エレンはその天に昇る細い帯を凝視した。
「やる」
ジャンがカップを差し出した。目はどこということもなくただ眼前を見渡している。
「は?」
「やる」
「いいのか」
「やる。今の俺、天国の住人。天使のジャンくん。受け取るがよい。崇めよ。奉れ。はいつくばって靴を舐めろ」
ミカサが俺に「あけおめ」言ってくれたよ…これ幸先よくね? もう俺の今年はマジパラダイスじゃね??
「するかボケ。まあ、それなら、もらう。……サンキュ」
エレンはひょいとカップをもらい受け、遠慮なく口にした。最後のことばは異様に小さかったが、アルミンには聞こえていた。
「ん。コレ美味いな…! チョコレートと珈琲混ざった味する。あああああったけええええええええ! ……アルミン、だから、その、飲み物、間に合ってる」

アルミンは横目で二人を眺めた。トムとジェリィなら、どっちがどっちだろう。
ジャンに、なんかおごってあげるべきかな。ミカサから預かったお金、あるんだし。エレンなりに冗談を冗談のままにしたいみたいだし。
カフェ・モカもう一杯…? それとも違うのがいいんだろうか。
アルミンは空を見上げた。つられるようにエレンも顔を上げた。ジャンは笑顔で倣うでもなく倣った。
夜空に咲く花は儚いクセに目に焼きついてかなわない。うっかり心に刷り込みそうになる。
共通のオモイデなんてものを、つくりそうに、なる。

何故か三人は同時にミカサが歩き出した方向を見た。サイドに結い上げた黒髪、カーキ色のモッズコートに黒のブーツのせいだろうか。夜に溶け込みやすいからか、どこに居るのか、もうわからなかった。

あの黒いストール、最初からあったっけ? アルミンは小首を傾げた。


ふ、と息を吐いた。それから、スマートフォンを操作する。覚悟を決めたように耳に当てた。

「あ、お母さん? うん。あのね、お友達のお父さんが、それぞれ家まで送ってくれるって言ってくれたの。だから、もう少しおしゃべりしてから帰る。朝まで居ちゃダメ? そう。前話したことある二十四時間のカフェ、覚えてる? そこで盛り上がってて、抜けたくない! 今日くらい、いいでしょ? トクベツに許可が欲しい!」

ミカサはぎゅ、と目閉じて頭を下げた。

「お父さん? ダメ? 私、いつもはこんなワガママ、言ってないと思う。ちゃんと一時間おきにメールするから! それはその、……盛り上がって時間ちょっとズレるかもしれないけど」

べしっ!!

空いている手で思い切りはたいてみたが、あまり効果があるように思えない。

「たまたま会場で会ったほかのコたちも一緒になっちゃったから、結構盛り上がってる! みんなの前でそんな電話したらしらけちゃう! トイレでこっそり電話してるの! …っひゃ!」

耳を唇で食まれて、ミカサは慌てて後ろを向いて睨みつけようとしたが、うまく身動きが取れず歯噛みしながら電話での会話を続行させる。つもりだった。

「こんばんは。電話代わりました。どうも。ええ、そうです。私が責任を持って送り届けますので。……はい。……ええ。いえ、どうかお気になさらず。別に大したことでは。ええ」

リヴァイが丁寧なコトバで話してる! ナニコレ。初めて見るし聞く!! マトモなオトナのフリしてる!!

「代わります」

ミカサの手から奪ったスマートフォンを元の手にひょいとすべり込ませた。何事もなかったように、また無防備な方の耳を食む。両腕は後ろからしっかりとミカサのウエストをホールドしていた。

(もおおおおおおおう! いい加減にして! このアクマ!!)

「はい、うん、そう。……いいの!? やった! ありがとう、お父さん! じゃあ、うん、また連絡するから。ちょっと遅れたからってやきもきしないで。ここ、三軒先のテイラーさんとこのミリアムが働いてるくらいだから、いかがわしいとかないし。ね? テイラーさん厳しいひとだもの。アラームセットして、出来るだけちゃんとメールするから……わっきゃ!」

リヴァイの手が胸元を彷徨っている上に、唇が耳やこめかみの辺りをからかいたげにくすぐってくる。そのせいで妙な声を上げてしまった。

「なんでもないの。電話落としかけちゃって。うん。じゃあ、あとでね。寝ててもいいから。目が醒めた時にスマホ見て確認してみて。そう? じゃあ、お母さんと、美味しくワイン飲んで。ワガママをきいてくれてありがとう! じゃあ」

「終話」をタップしてスマートフォンをテーブルに置くなりミカサは暴れた。

「リヴァイのばか! で、ん、わ!! してるのわかってるのに!! ヘンな声出た!」

無理矢理に身体を捻ると、ふわ、と腕が緩められた。リビングのソファでリヴァイの脚の間に座って後ろから抱きしめられたまま電話する羽目になるとは思っていなかったが、よもや、……あんなマネをするなどと。
ミカサが身体の向きを変えようとすると、上半身と両脚を抱えられて、リヴァイの膝の上に横抱きよろしく座らせられてしまった。恋人に甘えてお膝に座るカノジョの出来上がりだ。ミカサは悔しげに唇を噛む。
だいたい、こんな体勢で私みたいに重たいのを、軽々と抱えて向き変えられるって、……もう!

「やっと俺だけのもんになったか」
「ダイジなとこ! 電話! ゆっくり出来るかの瀬戸際!! リヴァイ、オトナなんだからわかるでしょ!!」

ミカサは噛みつかんばかりの勢いでまくし立てた。

「嘘つくの、しんどいだろ。悪い」

……だから、廊下とかほかの場所でかけたかったのに。堂々と嘘ついて平気なカオしてるとこなんて、見られたくなかった。

「平気。こんなの、フツウ。誰だってやってるし。でしょ?」

身体に絡みつく腕が、やわらかく包むように抱きしめてくる。耳元に唇が触れそうで触れない。吐息がくすぐってきた。

「お前には、フツウじゃねえだろ。必要なかったんだからな、……俺に逢うまでは」
「平気。リヴァイに逢えてこうして一緒に居られることの方が大事なの」

ミカサの口から「平気」ということばが出てくるのは、あまり好きではない。無理をしている時だとわかっている。
わかる間柄に、なってしまった。
リヴァイはミカサを抱きしめる腕に力をこめた。

「……そうか」

ミカサはばつが悪くなり、もじもじと身体を動かした。部屋を出て行かせなかったのは、ひとりで電話させないのは、私と嘘を共有するため。わかってる。
リヴァイは、やさしいから。

「でも! アレはよくない!」
電話してるのに、耳を甘噛みする、胸元に手を回す、こめかみにキスをする、首筋を舐める、ダメ、絶対!
「そう睨むなよ。気が急いたんだからしょうがねえだろ。腹減ってる時はすぐにでも食いてえもんだ」

私が今の雰囲気を変えたいって思ったの、ちゃんと気づいてくれた。リヴァイが気遣ってくれることがいつも嬉しいのに、どうしてか泣きたくなる。

「……夕食、食べてないの? なにか、つくる?」 
ミカサが途端に心配そうな顔をする。真っ直ぐにリヴァイの目を覗き込んできた。
「まあ、確かに、食ってねえな」
「じゃあ、今すぐ、なにかつく」

ひとがしんぱいしてたずねてるときに、キスって。どうなの、ソレ。オトナのクセに。

「朝まで食い放題コースだ」
「!! ひとが心配してるのに!」
「なら、気づけよ」

リヴァイの両腿がミカサを持ち上げるかのように動いた。思わず下を見てしまい、すぐに顔を上げた。ジーンズに収まって見た目には判らないが、当たった感触はどう考えても、……。

ミカサが真っ赤になった。

「フルコースな。お前がくれたクリスマスのアレも悪かねえが、今日はもう少しパンチの効いたのがいい。キスって言ってもイロイロあるだろ。口と口ですんのと一緒で、ヴァリエイションてもんがある」

耳に唇を押し当てたまま、何を言ってくれているのか。ミカサは寒さなどすっかりどこかへ放り投げた気分になった。
登山用インナー、だいかつやく!! ムカつく!!

「お前にはちゃんとデザートもつけてやる」

……あの、私、何されるの……? 恐ろしくて声に出して尋ねる勇気がない。

「え、あ、やだ! ダメ!」

リヴァイの手がボタンを外したカーディガンをミカサの肩からすべらせ、中に着ていたハイネックのカットソーの裾に手をかけ、引き上げようとしている。

「ああ!?」

これ以上ないだろうというくらい不機嫌そうな声が響いた。

「今日は、ダメ!」
「着たままヤリてえなら、それでも構わねえが」

眉間の皺! ソレどうにかして、このアクマは!!

「そうじゃなくて、その、……今日は厳寒対策でイロイロ着込んでて、あの、ちょっとみっともないっていうか、」
「わかった」

あっさりと引き下がってくれて、ミカサはため息をもらした。良かった。

「下ごしらえの皮むきから俺がやってやる」
「え。は?」
「イキがいいのは悪くねえ。皮むいてキレイに洗って、それからじっくり丁寧に下ごしらえして、トロットロにしてから、……ゆっくり味わわねえとな」
「あの、リヴァイ、」
「よし、風呂行くか」
「待って!」
「うるせえ。声出すのは俺がイイコトしてやってからだ」
「ちょっと、リヴァイ、」

ミカサをひょいと立たせるも、手は掴んだままだった。逃がす気がない、のは、その眼の昏くて甘やかな輝きでわかる。

「俺がお行儀いいフリしてる内に腹括れ」
「もう悪い! お行儀悪い、すごくすごく悪い! サイアクにワルイ!!」
「ほう。なら遠慮要らねえな。バス・ルーム入ったら即突っ込むからな。向かい合って立ったまま、まだ試してねえよな? おまけに着たままかよ。どういうシュミしてんだ」
「やああああだあああっ!!」

もう、もう、もう、もう、もう!! 信じられない!!
ミカサは眩暈を感じ始めた。このアクマ、どうしよう!! アクマっていうか、……淫魔!?

「聞こえねえな。お行儀ワリぃと耳も悪くなんだよ。但し、お前がイイ声出したら回復する。憶えとけ」

言いながら、ミカサを抱き上げる。

「リヴァイ!」
「なんだよ」

――ほんっっっっとに! 卑怯! ズルイ!! ミカサは眉を下げ、唇を噛んだ。

穏やかに微笑まれては、逆らうことなど出来ないではないか。しかも、わずかに気遣う表情が混ざっている。

「……だいっきらい……」
「だろうな」

そういうやさしいキスも、キライ。散々からかった後は、特に。

ミカサが腕を回して抱きついたのを確認すると、リヴァイはゆったりとバス・ルームに向かって歩き出した。
スタッカートはなりをひそめて、なめらかに、ラルゴの速度。




タオルでくるまれて肌をすべる水の珠が消えた後、外では首から下げていた指輪を、右手の薬指にはめられた。

世界は明け方に向かっているが、少しばかり二人で太陽に背くことにした。カーテンを閉め切って、いくつかのキャンドルを灯す。去年夏に一緒に過ごした時に買い込んだものがまだ数本残っていた。
あの夏が、もう「去年」なのだ。ミカサは落ち着かない鼓動とどこか冷静な頭で思いを馳せた。
やわらかなキスをくれる薄い唇と、いじわるなのにやさしい指が自分をゆるゆると解いていくのを感じる。

悪い女の子は、どこにでも行ける。たとえばあなたと二人でしかいけない場所。
誰も追いつけないところに。

すごく、しあわせ。
お願い、もっと奥まで、来て。
あなただけに許した場所まで。あなた以外、知らないところまで。



ここはまだ、夜のどこか。神様の手の届かない楽園。

太陽に背を向けても、支配するのは、私だけの明けの明星。
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2018/01/08 (Mon) 23:49 | REPLY |   

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