ハッシャバイベイビィ

リヴァミカ。一応既に恋人同士。時系列はいつも通りナゾ。

■多分甘め。免疫のないミカサたんとそれを理解して今のところ無理には押さないリヴァイさん(ウチの兵長紳士なの?)。

■ミカサの歌うまい設定を使いたくてあれこれ捏造。
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「悪かったな、ひとりにして」
「いいえ」
ドアから出てきたリヴァイがミカサに声をかける。ミカサは部屋にあった本を読むでもなく読んでいたのだが、顔を上げてリヴァイを見つめた。
エルヴィン・スミスによる急な召集によりリヴァイが部屋を出たのは既に夕食も終えた後の事。部屋に来るように言われていたミカサは訪れて間もなくリヴァイの私室にひとり残されてしまった。戻ってきてすぐに入浴すると言ってドアの奥に消えた。潔癖症の割に、風呂から出てくるのは早い。ミカサはいつも思う。
「髪。水気の拭き取りが十分ではない。風邪を引く原因になる。良くない」
「なら、頼む」
ばさりとタオルを放り投げる。ミカサはそれを受け止めた。それから、スカートのポケットの中を手で探る。櫛は…うん、あった。
「座って下さい」
「おう」
リヴァイはどさりと身を投げ出すようにしてベッドに腰掛けた。
「疲れましたか」
「そうでもねえ」
仏頂面でそう言われても。
タオルを広げてふんわりと頭を包み込むと、徐にわしわしと髪をもみ込んだ。そっと優しくやってもおそらく徒に時間ばかりかかってしまう。簡単に畳んだタオルをリヴァイに預けると、今度は櫛で髪を梳いた。相変わらず、さらさらと指通りがよい。特別なケアをしている訳でもないのに、いつも艶やかな髪をしている。
リヴァイは子供のように大人しくされるがままになっており、そういうところは、ちょっと可愛い、とミカサは思っている。いつもこんな風に可愛ければいいのに。ただ。こちらを凝視するのはやめてほしい。
深く考えずに正面に陣取って髪を拭いて整え始めたのだが、……口を噤んでじっと見上げる、というのはいかがなものか。
割と早い段階で気づいてはいたと思う。不機嫌そうな表情をしていて、眉間に深い皺があるものの、顔立ち自体は整っていること。特に、瞳が美しいこと。グレイにほんの一滴瑠璃を溶かし込んだような色をしている。その目がどこか哀しげに見えて、時々胸が締め付けられそうになること。子供の頃は案外可愛らしかったのではないかなどと思う。
見つめられると、どうしていいかわからない。自分の頬が上気し始めたのを感じる。あまり、見ないで欲しい。
ぽふ、と何かが後頭部に触れた。どんどんリヴァイの顔が近づいて、……違う、自分が引き寄せられて、その顔に近づいているのだ。
「どうした」
「何でもない!」
近い近い近い近い近い!!!! ミカサは心臓が早鐘を打つのを感じる。あまり、見ないで欲しい!! 思わず、ぎゅ、と瞼を閉じてしまった。
ふいに、唇にやわらかな感触が押し当てられた。体温が一気に上昇する。
「キスぐれぇ慣れろ」
顔を真っ赤にしたミカサの耳元でリヴァイが囁く。舌も入れてねえだろうが、と思うだけでミカサには伝えないのが、多分リヴァイの優しさなのだろう。
「まあ、……そういう反応も、悪くはねえがな」
今すぐ窓からでも飛び出したい。一階ではないなど、もうどうでもいい。エレン、助けて!! ミカサは半ばパニックに陥る。
「いっ、いきなりは、どうかと思う」
「伺い立てたって挙動不審になるんだろうが。安心しろ。慣れさせてやる」
そう言って、リヴァイが舌先で自身の薄い唇を軽く舐めた。ミカサは見ていられなくなり、改めて瞼を閉じる。気が動転して、呼吸の仕方も思わず忘れてしまった。
あたたかな両の手でミカサの頬が包まれた。更に引き寄せられる。さっきよりも少し長く、より深く、唇を塞がれる。
「……ちゃんと、息しろ」
ぺし、と軽く頬をはたかれた。ミカサはそれでようやく自分の口が解放されたのを知り、慌ててはぐはぐと空気を食んだ。まなじりに少し涙が光っている。それを見たリヴァイがぽつりとつぶやいた。
「まだまだ先だな」
「え、あの、何が、」
ミカサが疑問符だらけの表情を見せるとリヴァイは黙って頭を撫でた。そして、のそりと動いたかと思うと、ミカサの腿に頭を乗せて寝転んだ。
「何か歌え」
「は?」
また、唐突に何を。
「お前、歌上手いだろ」
リヴァイの前で歌ったことなどない。そもそも人前で、――あ。ミカサは思い出した。今日のように風呂から上がるのを待っている時などに、何となく、口ずさんだような気が、しないでもない。
「き、聞こえてたんですか」
何だろう、またひとつ弱みを握られたような気分になる。
「まあな。ちゃんと、聴かせろ」
「聞かせるほどではないと」
「聴きてえんだよ」
だから、そういう眼はやめて欲しい。このひとはとてもズルイところがある。思わず唇を噛んで自分の膝枕でくつろぐ男をねめつけてみるが、その程度のものはあっさりと跳ね返してくる。多分歌うまでは要求されるのではないか。
はあ、とため息をつき、今度はすう、と少し吸い込んでみる。腹を括るしかなさそうだ。何を歌ったものか。逡巡して、ふいに脳裏を過ぎった歌にした。それこそ、時々口ずさんだように思う。

  日の暮れるころ帰る鳥 星降る夜にねむります
  月のおはなしききながら 朝待つ内にゆめを見る
  この子にどうか優しいゆめを いとしいこの子に良いゆめを

やわらかで穏やかな旋律に、ミカサのしっかりとした澄んだ声。
「悪くねえ」
どうやらほめられたらしい。リヴァイは目を閉じて聴いている。気恥ずかしいが、喜んでもらえたのなら、いいとすべきか。
「続き、ねえのか」
二番も所望しているらしい。ミカサは照れながらも再び口を開いた。

  夜の明けるころ眠る鳥 日の出待ちわぶその窓辺
  星に手を振りゆめの中 月にほほえみ目をとじる
  朝待つはねに優しいゆめを いとしいこの子に良いゆめを

「子守唄か」
「はい、多分。子供の頃、寝しなに母が歌ってくれました。この歌、ご存知ですか?」
しばしの沈黙。
「……どうだかな……」
リヴァイはあまり好んで自分のことを語ろうとしない。ことに、過去については。問えば答えてはくれる。地下街の出身であることとわかりやすい幸福と豊かさに満ちた幼少期ではないことは聞いていた。
「悪かったな。母親のことを思い出すのは、お前には辛いだろう」
「……!」
少しあれこれと考えているのを、誤解させてしまったらしい。そもそも、これを選んだのも何となくだ。聴くと安心出来た記憶が自分にはあったから。
「違います、大丈夫です」
むしろ、気になるのはあなたのこと。それなのに、私のことを気遣ってくれる。任務や責任から解放されている時くらい、穏やかな気分でいて欲しいだけだったのに。
「大丈夫じゃねえだろ――すまない」
ぱたぱたと自分の頬に落ちてくる涙にリヴァイの表情が曇る。
「すみません。違うんです」
涙が勝手にこぼれてしまう。どうしたらこのひとをしあわせにしてあげられるんだろう。
「あなたが喜んでくれるなら、いつでも歌います」
リヴァイの腕が伸びて、ミカサの頭を引き寄せた。ミカサの手がリヴァイの左胸に添えられる。鼓動が伝わってくることが、どれほど大切なことか。体温と鼓動と吐息。生きてここに居てくれるという事実。

あなたにどうか優しいゆめを――


まだ昏い。
リヴァイは目覚めた。あまり長く深く眠れるタイプではない。だが、今日は随分ゆっくりと深く眠れた気がする。ミカサはまだ隣で小さな寝息を立てている。夜が明け切る前に、起こして兵舎の女子寮に戻らせなくてはならない。あと少しなら、こうして一緒に横になっていられるだろう。
その身体に回した腕に力を込めてより抱き寄せると、ミカサが頬を擦り付けてきた。
「ありがとうな」
ミカサの顔は安心しているように穏やかだった。

《了》
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