ねこへいちょう。9

ノックが響き、リヴァイが入室を促すと、ドアの向こうから意外な声がした。
「ミカサ・アッカーマンです。……兵長の上着をお届けに来ました」
ミカサは殺風景な部屋に鎮座する、態度だけは大きい小柄な男を見つめ返した。必要最低限の家具と、塵ひとつない簡素な部屋に、やわらかな芳香が漂う。紅茶の香りだ。テーブルの上にポットが見える。
「……拾ってもらって悪かったな」
あれは、「落とした」という事なのか。落とした? ……お、落とした、……。
「こちらに置いてもよろしいでしょうか」
一応は上司である。ミカサなりにことばを選んでみたが、我ながらぎこちない。長椅子の前のテーブルの上に置いていいか尋ねると許可が出たので、それに従った。
「ああ、そうしてくれ」
「洗って乾くのを待ってから伺ったので、遅くなってしまいました。勝手な事をしたのであれば、すみません」
「借りた」ものをそのまま返すのは少し気が引けた。散々迷ったが、洗濯をし、乾くのを待った。逡巡の時間を有効活用しただけ、とも言うのだが。
「いや、……助かる」
リヴァイは紅茶を啜っていた。兵舎の食堂や野外携行用のものとは違う、存外繊細そうな華奢なデザインのカップを手にしていた。何故かカップの持ち手には触れることすらせず、器の上から手で覆うように持ち上げて器用に飲んでいる。
「あの」
「何だ」
「猫。……ありがとうございました。ハンジさんのところにお礼に伺ったら、兵長も色々手を尽くして下さったと」
この男に礼を言うのは少しばかり業腹だが、筋は通しておかなくてはならない。ミカサは自分に言い訳する。
リヴァイは舌打ちをした。クソメガネ、あることねえことヌカしやがって。
「ハンジに礼を言ったのならそれで十分だ。奇行種にしてはマトモな対応しやがった」
「可愛がってもらえてるんでしょうか」
つい、ぽそりとつぶやいてしまった。何故よりによってこの男の前でこんなことを。ミカサは軽く動揺したが表情に出さないようにした。
「心配か」
「はい、少し」
「小さかろうが野良だったんならそれなりに生きる術は持ってんだろ。あっちでは重宝されてるらしいから食うには困らねえはずだ。気に入らねえ場所なら出て行って好きにするだろう。それもあいつの自由だ。……もう拾うなよ。いずれエルヴィンからも奴の名前で兵団敷地内で許可無く動物を飼育するなという公的な通達も出るからな」
「はい」
ミカサは気づく。そっけなく、どこか投げやりな口調ではあるが、窘めているのであって叱りつけたり怒鳴ってくることはない。理不尽な説明もなかった。もっと高圧的に怒られても文句は言えないだけに、良くも悪くも拍子抜けした。
困る。こんなところを見せられるのは。これ以上優しいひとなのかもしれないなどと思いたくない。
「お邪魔してすみませんでした。失礼します。……本当にありがとうございました」
その謝意は猫のことに関してなのか、はたまたジャケットに関してのことなのか。ミカサは言及せず、リヴァイも追及しなかった。
「ああ」

ミカサが去った。少しばかり手持ち無沙汰な様子でどうにかことばを選んでいる姿は、いつものふてぶてしさが少ない。年齢相応の不器用さがあった。いや、そもそもあいつは戦闘以外はあまり器用ではないのか。
リヴァイは残っていた紅茶を飲み干すとジャケットをクローゼットにしまうべく手を伸ばした。
丁寧に畳まれていたそれを持ち上げようとして、左胸のポケットがやや膨らんでいる事に気づいた。フラップを押し上げると中から小さな円形のやや平らな缶が出てきた。
缶の蓋を開けると茶葉が詰まっていた。改めて缶を見直すと、この辺りではよく知られた茶商の商標が浮き彫りにされている。薄給の調査兵団において、新兵ともなればより見入りは少ないはずなのだが。
香りも茶葉の状態も申し分ない。おそらく、少々値が張る代物だ。
「……ガキが。生意気なマネしやがって」
茶器一式をしまう棚にその缶を置いた。大切そうな手つきでそっと置いたのは、中身の価値によるものかそれ以外の理由によるものか――
その時のリヴァイの顔を誰かが見る事が出来ていれば、多分驚いただろう。ほぼ見せたことのない類の表情だった。


ちび兵長、猫兵長と呼ばれた猫は、何故か引き取り先でも「兵長」と呼ばれた。この世を去るまでの間、傷ついた兵士たちから愛された。
ミカサは時々目つきの悪い小さな黒い猫を思い出しては幸福を祈ったが、それは叶えられた。新たに護りたい存在を見つけたかもしれないことには、まだ気づいていないふりをすることにした。

《了》
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ちょこっとあとがき。

まさかのシリアス(?)展開。てゆーか最初ギャグ路線だったのにどうしてこうなった(笑)。同人ネタあるあるな「登場人物の誰かに似た動物登場」。何番煎じだ。出がらしだろもう。

お笑いで突き進もうとしていたのに、どことなくはぢゅかちいりばみかエンドになってもた…。

リヴァイが一時戦線離脱した後、ケニーに再会する前のいつか、くらいの時期、というものすごく漠然とした時間軸。そもそもあの物語の中でこんなにまったり出来る時期があったとは思えな(ry

へいちょ、ひとが見てないところでは猫もふってそう。動物と子供には優しそうな気がするし。てゆーかあのひと基本優しいよね? 口悪いし態度横柄だし表情が凶悪なだけで。なんやかやで104期生たちを可愛がっておるし。存外マトモな大人なのはハンジも同じ。

ミカサ大好きで王道と定番好きな私ならエレミカになるはずなのに…なのにリヴァミカだよ。だってエレンさん朴念仁。てら朴念仁! つかアレだ、巨人駆逐に全て向かってるからミカサの想いに気づけねえ↓(いや、もはや巨人関係ないのかも) …という原作の呪縛からうまいこと逃れられないわ。

それ言ったらリヴァイも色恋沙汰とは無縁そうだが。だいたい、睡眠時間が短くてマトモにメシ食ってないって、人間三大欲求の内の二つが壊滅的。そしてその二つが満たされていないと性欲は駆逐(笑)される傾向にある。そら恋もへったくれもねえや。
まあ、そんなのと無縁に残酷な世界と闘うあの作品が大好きなんだけども。

なら何でぶち壊すんだよ(笑)。

うん、すみません。欲望の赴くままに生きるわ。世界は残酷だからしゃーない。
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